自転車旅における野宿のパイロット運用
自転車旅を長く続けるにあたっては、時に野宿を選択することがある。野宿はもう長いことやっていないので、久しぶりにやってみるとどうなるかを体験してみた。何事も経験である。

サステナブルな自転車旅を実現するには、生命力と財力の消費バランスを取ることが重要になる。夜通し走って体調と精神に無理をさせれば短期間で遠くに行けるし金もかからないが、早晩倒れてしまうだろう。豪華な宿に泊まりながら小刻みに移動すれば、体力は万全に保てるだろうが、早晩予算が尽きてしまう。その中間として、格安宿(ホステル、ライダーズハウス、快活クラブ等)を積極的に選んで行動するのが私は好みだ。
連日走行し続けることを考えると、1日の走行距離は150kmまでにしたい。そうすると、地方では、次の格安宿がある都市に到達できない事態が起きうる。例えば函館から札幌は270kmあるので、長万部あたりで1泊する必要があるが、そこに適切な宿があるかどうかはわからない。また、そもそも天候などの都合で150kmを走りきれない可能性があり、その際には途中でビバークしなければならないかもしれない。
学生の頃はとにかく金がなかったので野宿ばっかりする自転車旅をしていたが、遥か昔のことなので感覚を忘れてしまっている。なので、それを思い出すべく、適当な場所で野宿してみることにした。緊急避難としての野営を想定しているので、テントは持って行かず、寝袋とエアマットだけを使う。寝袋はライダーズハウスや漫画喫茶で寝る際にも有用なので、野営しなくても携帯する価値がある。寝袋はまともな製品では最軽量と思われるイスカのウルトラライトにした。中古で6800円で入手できた。

寝袋だけだとベンチや地面の上では硬いし冷えるしで眠りづらいので、エアマットも買った。定番どころのモンベルのコンフォートシステムエアパッド120だ。バックパックを枕にするとその分の長さが削れるので、長さ120cmで十分だ。中古で3600円で入手できた。
寝袋の収納寸法が12.5*22で、エアマットの収納寸法が9*20cmなので、19Lのバックパックの底に並べて入れられる。とはいえその時点でバッグの容積の40%くらいは使われてしまう。それにさらに長旅を想定してジャージ上下と下着とカメラ一式を入れると、バッグ内はほぼ満杯になってしまう。重さは、寝袋600gとエアパッド376gの合計976gが足されてことになる。バッグ自体が1100g、着替え一式で800g、カメラとレンズ一式で1000g、ドリンクボトルと中身で800gを足すと合計4676gという計算になる。財布やらスマホやらKindleやら充電器やらケーブルやらアメニティセットやらも足すと、合計7kgくらいになるかな。長旅の装備としては軽量だが、自転車に足される重量としてはそれなりの負担だ。




野宿しなければならない地域を想定しているので、パイロット運用の場所は田舎でなければならない。自転車で手軽に行ける田舎として、三浦半島の先端付近を選択した。具体的な野営場所は現地で物色せねばならない。それも含めての訓練だ。ということで、行き先だけ決めて寝袋といつものサイクリングセットだけ持って三浦半島に出かけた。横須賀を抜けて、観音崎を超えて、剱崎の近辺にたどり着いた。ここが三浦で最もひなびている。





剱崎と三崎の間には風車があるのだが、風車の根本が宮川公園という公園になっている。今回はここを寝床にすることにした。その理由は、いい感じの東屋があり、トイレと水道もあるからだ。東屋が最重要で、雨風が凌げるとともに、上に寝られるベンチがあり、また公道から目立たない位置にあることが望ましい。
- 神奈川県三崎市



宮川公園の前はバイクや自転車で三崎付近を回る人々の溜まり場になっているので、若干うるさいのが難点だ。ただ、景色は良いし、設備も十全なので、私の中ではSクラスの野宿場所だ。

万が一大雨になった時の退避場所も見つけておくことが重要だ。近くに港の施設が屋根付きだったので使えそうだし、近くにいい感じの廃墟もあったので、困った時はそこに逃げれば良さそうだ。


宮川公園到着した時には東屋がギター練習カップルに使われていたので、彼らが去るまで時間を潰すことにした。城ヶ島公園に足を伸ばして、そこで寝られるかを検討した。展望台の中にいい感じのベンチがあり、トイレや水道があり、景色も良い。




しかし、城ヶ島公園のような管理事務所がある大きい公園は、基本的に野宿には向かない。夜中に管理人が巡回してきて、十中八九追い出されるからだ。寝込みを襲撃されて追い出された時の屈辱と疲労感といったら筆舌に尽くし難いので、基本的に避けた方がよい。上に寝られないように「工夫」されたホスタイルデザインのベンチではない公園があっても、そういうところは管理人が追い出し役になるので気が抜けない。世知辛いとはこのことだ。


宮川公園に戻ってみたら、風車がライトアップされていた。とても綺麗なのは良いのだが、それを目当てに来た客が東屋を使う事態は望ましくないので、早めに場所を確保せねば。


幸にして東屋は無人だったので、ここに泊まる準備を開始した。といっても、自転車を止めて、荷物を解いて、エアマットと寝袋を設置するだけだ。

夏の野宿で雨対策と並んで重要なのが、蚊の対策である。蚊取り線香と携帯ケースを持ってきておいた。蚊取り線香って屋外でも意外に広範囲に効くので、風上に設置しておけばかなりの防虫効果が期待できる。もちろん肌の露出部には虫除け(サラテクト)をふんだんに塗布しておく。


場所が準備できたら、体のメンテだ。まずはプロテインを飲んで栄養補給をして、それから顔を洗ったり着替えたりする。今回ここで大きなミスをしていて、Tシャツの替えを持ってくるのを忘れていた。仕方ないので風通しの良いところに座ってTシャツが乾くのを待つわけだが、乾いたとしても汗臭いのが辛い。自転車旅の場合、1泊だけだとしても着替えは必須だ。その後、近くの食料品店で買っておいた食料と酒を堪能しつつ、読書タイム。ミレービスケットが体と心に沁みる。

酒飲んでから読書していると、特に英語の文章を読んでいると、すぐに眠くなる。なので、眠くなってきたらさっさと歯磨きとトイレを済ませておくのが良い。そして、寝袋に入ってしばらく読書していると、目が開けていられなくなってくるので、そのタイミングで眠ってしまう。22時くらいだったかな。蚊取り線香の持続時間は7時間ほどなので、寝る直前に新しいものに変えておくのが良い。
眠ろうとしたのだが、ここでまた不測の事態が発生した。エアマットの空気が抜けていたのだ。入れ直しても、しばらくすると抜けてくる。どう考えても空気漏れだ。経年劣化で接着剤が弱っていたらしく、バルブの近くが剥がれて隙間ができていた。中古で買ったのが仇になった。この問題は家で膨らませてみた時に露呈していて補習用の接着剤で対処したのだが、それでは不十分だったらしい。現地では対処しようがないので、ぺったんこになったエアマットの上で寝るわけだが、さすがに硬くて眠りが浅くなる。夜中に何度も起きる羽目になった。

宮川公園は夜中にも訪れる客が多く、若者の集団らしき人が東屋の横を通り過ぎる度に起きてしまう。「あれ、何かある」「自転車じゃん」「人もいるっぽいよ?」みたいな会話が聞こえてくる。この夜も何組か来た。オヤジ狩り的な事態に遭わないとも限らないので、気が抜けない。実際にはその確率は低いし、そんなことを心配していたら野宿なんてできないのだが、久しぶりなのでちょっと神経質になっている自分がいる。
夜明け近くになると流石に眠すぎて落ちて、気がついたら8時くらいになっていた。文字通りの朝チュンに起こされてみると、体の疲れはちゃんと取れていた。体の汗臭さがひどい以外は、心も体も蘇った新鮮な朝を迎えた感じだ。起きた瞬間に外出状態というのもまた新鮮な感覚だ。


1泊の旅程なので、あとは帰るだけなのだが、湘南サイクリングっぽいことをしたい。まずは持参したEAAを飲んでから出発し、三崎港で朝飯。ここはいかにも港町って感じで良い。銚子みたいに大型船が荷を下ろす街ではなく、近海で操業する地元の漁師が多い街なので、親しみを持ちやすい。


その後、134号をひたすら進んで湘南を走破した。今回はローバイクで来ているので、途中で見かけたローディにも負けない。勝手にライバル認定したアニキをひたすら追従するプレイ。ドラフティングにならないように距離は取るけど。


由比ヶ浜では海の家の建設が終盤に差し掛かっていた。もうすぐ海開きだ。江ノ島も同様に活気があり、ウィンドサーフィンなどのマリンスポーツに興じる人々で溢れていた。



茅ヶ崎漁港に寄った時は、いつもこの店で生シラスを調達して食べている。100gで400円と高いのだが、定食やで生シラス丼を頼むと100gも乗っていないので、シラスを堪能したい場合には店で買った方が良い。酢味噌もつけてくれるので、その場で楽しめる。


平塚まで行って湘南平を登った。ここも私の好きな場所だ。坂はきついが、登った先の展望台からの眺めがとても良い。



ここで雨が降ってきてしまったので、平塚駅に向かってから輪行で帰宅した。持っててよかったペコの輪行袋。

まとめ。自転車旅の野宿を久しぶりに体験して、その要領と辛さを思い出した。正直なところ、進んでやるもんじゃない。場所の選定に時間がかかるので実質の行動時間が圧迫されるし、眠りが浅いので体力の回復は理想的ではないし、蚊やら体臭やら若者集団やらで心理的に損耗するからだ。それに比べるとどんな安宿でも天国だ。とはいえ、宿が確保できない場合には野宿ができるスキルと度胸も持っておくと旅の余裕が違ってくる。今回それが実践できて良かった。
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