望遠レンズの圧縮効果による激坂トリック

「激坂写真」スポットとして有名な江島大橋を題材として、望遠レンズの圧縮効果について検討してみる。そして、なぜ江島大橋が題材になるのかも解明する。


鳥取県の境港は日本海と中海に囲まれていて、街全体が埠頭のような形をしている面白い場所だ。中海には江島という島があり、そこにつながるのが江島大橋である。

江島大橋の江島側はそこそこな急坂になっているのだが、SNSなどで「日本の坂はクレイジーだ」とか言ってこの坂の写真が掲載されていることがある。

実際に現地に行ってみたが、そこまですごい坂じゃない。激坂ってほどではなく、自転車でも普通に上り下りできる程度の坂だ。

横から見るとわかるが、勾配は大したことはない。6%ちょいらしい。35mm版換算30mm画角のレンズで全体を撮るとこんな感じだ。

坂の角度を強調するには、横からではなく、なるべく正面の近くから撮る方がよい。レンズはそのままで近くから撮ってみた。

もっと近くから撮ってみた。こうすると、なんだか急な感じに見えてくる。ただし、こうなると遠近感(パースペクティブ感)が強調されて、近くから撮っているのがモロバレだ。

正面から撮るとこんな感じだ。やはり広角レンズだと遠近感が感じられる。

トリミングで拡大するとこんな感じ。坂の頂上が遠くて坂の麓が近いのが分かるので、勾配が急である感じが薄い。とはいえ、横から見るよりは急な感じがする。

遠近感を薄めるには望遠レンズで遠くから撮ればよい。残念ながらこの日は単焦点1本しか持っていなかったので、広角で撮ってトリミングして代替する。

てことで、見事に激坂の構図になった。正面から撮ることで坂の水平方向の成分が圧縮されて角度が増したように感じられる。遠くから撮ることで坂の頂上への距離と坂の麓への距離の比率が近づくので遠近感が希薄になる圧縮効果が生まれる。その両者を合わせると、あたかも激坂であるかのように描写されるのだ。

これで分かる通り、厳密に言えば、望遠レンズに圧縮効果があるわけではない。遠くから撮ることで、遠くの物同士で撮影位置からの距離の比率が小さくなり、それは視野角の差異が減ることを意味するので、遠近感が薄れるのだ。望遠レンズは遠くを撮って画面上で大きく写すのに都合がいいというだけだ。

なぜ江島大橋が題材になるかは、冒頭の地図を見れば分かる。坂の正面に建物が全くなく、また中海の対岸から撮影できるので、「正面かつ遠くから撮る」ことが簡単にできるのだ。大きめの橋でこれができる場所は限られている。換算1000mmくらいの望遠レンズを持って境港(撮影地点は松江市)に行けば見事な激坂写真が誰でも撮れるはずだ。空気の揺らぎで遠くから撮ったのが分かってしまうのが嫌なら、冬の晴天の朝に行くのが良さそうだ。