ブロンプトンのリアフレームの換装
ブロンプトンのリアフレーム(リアトライアングル)が破断してしまったので、純正の全く同じものに取り替えた。その方法について述べる。

ある日、ロングライドの帰りに街中を走っている時に、車道から歩道に上がるために斜めに縁石を乗り越えた。もちろん、歩道と車道を行き来するために5cmくらいに低くなっている部分を通ったし、前輪が滑って転けないように前輪をホップさせて超えた。その直後に後輪が縁石を乗り越えたわけだが、そこで後輪が強めに滑る感覚を覚えた。後輪が段差に押されて滑ってから乗り越えることはよくあるので気にも留めなかった。しかし、しばらく走っていたら、妙に後輪がグニグニと左右に揺れる感覚を覚えた。タイヤを調べてもパンクしている様子はなく、ホイールに異常があるわけでもない。そこでフレームを調べたら、なんと、リアフレームの付け根に近いパイプが破断していた。それが冒頭の写真だ。

鋼鉄製なのに、丈夫さに定評のあるブロンプトンなのに、歩道の段差で横に流れたくらいの衝撃で破断するとは意外だ。溶接部分が割れたわけじゃなくて、普通にパイプの途中で割れているので、組み立て職人の腕の問題ではなく、単に材質の限界ということなのだろう。鋼鉄は金属疲労限界があるので経年劣化は一定以上は進まないと言われているが、降伏応力以上の力がかかれば折れてしまう。強い衝撃は、視認できる変形を起こさなくても、内部の傷として蓄積されていく。既に5万キロくらいは乗っている車体なので、一般論としては、むしろ今まで持ったのが上等だとも言えるのかもしれない。ただし、今回の横方向の衝撃は、おそらく設計上の想定よりもかなり大きいものだったのだろう。横滑りしている最中は上図のように右方向に強い力がかかり、横滑りが終わって後輪のグリップが回復すると今度は左方向に強い力がかかるという二重苦だ。そういう異常事態が無ければもっと長く持ったと思う。
不幸中の幸いにして、フレームが一体型ではないブロンプトンの場合、廃車にせずとも、リアフレームだけを取り替えて直せる。モジュール設計万歳。ただし、自転車店に持ち込んで直してもらうと、かなり金がかかるっぽい。純正のリアフレームが31999円で市販されているのを見つけたが、それに類する部品代がかかるだろう。メインフレームとの接続部のヒンジの部品は4500円らしい。さらに工賃が上乗せされるが、それが結構高いっぽい。

リアフレームのヒンジの部品を交換する動画を見つけた。その工賃は12000円らしい。リアフレームを交換するとなると、その他にホイールとチェーンとブレーキと反射板とキャリアローラーとマッドガードとサスペンションとプッシャーとシフターケーブルの移植が必要になる。それらを総合すると、工賃だけで3万円とか5万円とかかかりそうな気がする。実際に店に聞いてみないとわからんけども、プロの手を煩わせるならそれくらい払うのは妥当だろう。
上記の動画を見ていたら、自分でもできそうな気がしてきた。最も難しいのはヒンジのボルトの固着剤を熱で溶かしてからボルトを外す工程だ。熱するのはハンダごてでもできるようだ。ボルトの六角穴がインチ規格なのが厄介だ。公式の説明書によると、5/32インチ(3.97mm)なのだ。4mmレンチだと微妙に入らない。それが2本必要だ。安い道具を買って自分でボルトを外す作業をやってみて、できたなら、残りの作業は自分でも確実にできる。ヒンジのブッシュはメインフレームに残ったものをそのまま使えば良い。もしできなかったなら、ボルトがなめる前に諦めて、素直に自転車店に頼めばいい。
実際にやってみたところ、なんとかできた。ハンダごてでボルトを十分に熱すれば、ちゃんと固着剤が溶けて、それほど力を入れなくてもボルトが回った。普通に正ネジなので反時計回りで緩む。左右の供回りを防ぐために2本のアーレンキーを左右に差して回すと、左右どちらかのネジが緩み始める。ここで問題となるのが、どちらかが緩む場合、もう片方は緩まないということだ。よって、片方が緩んだら、それをまた軽く締めて、逆側の作業に移る。緩んでいない側だけをハンダごてで温めてから、先に緩んだ方のアーレンキーを車体側に強く押し付けてボルトが動きにくくした状態で、緩んでいない方のアーレンキーを回す。そしてなんとか回ったなら、今度は交互に緩める作業を行う。ボルトを破壊せずに外せれば、ヒンジ用の部品セットを買う必要はない。

ヒンジさえ何とかなれば、残りは簡単だ。リアフレームに付いた各種部品を取っ払えば良い。アーレンキーとモンキーレンチさえあえば作業できる。チェーンは切らないと外せないが、クイックリンクならそれも簡単だ。注意すべきは、プッシャーのスプリングシステムは、ハンドルに付いているシフター内部を開けてワイヤーを外してからじゃないと取り外せないことだ。具体的は方法は公式の説明書に書いてある。

リアフレームをどうやって入手するかだ。上に挙げた純正リアフレームを通販で買うのが無難だろう。ヤフオクやメルカリで未使品が35900円で出品されていて、大体30000円から40000円くらいが純正の相場っぽい。この松戸のサイクルサービスおおやまは高崎のサイクルテックIKDと並んで個人店なのにブロンプトン部品が充実していて、通販もやってくれていて有り難い。あとはワイズロードとロロかな。ブロンプトンを扱っている店なら大抵の部品は買えるが、在庫にない場合には取り寄せになってそれなりの日数がかかる。リアフレームとかのあまり個別に買わなそうな部品は在庫されている確率が低いので、とにかく多く当たって調べるしかない。
サードパーティのチタン製のものも検討した。AliExpressにある以下のものが気になった。ホイールのエンド幅が130mmではなく112mmなのを確認しておけば、形状の互換性に関しては問題ないはずだ。送料込みで44753円なので、差額11764円で350g軽量化できるなら、コスパは悪くない。なので、実は一度ポチった。しかし、発送までに何日か待たされている間に思い直して、キャンセルした。無名メーカーのものは強度や耐久性が不明なので躊躇したのだ。AliExpressの外で該当製品のレビューが存在しないのも気になったし、中華フレームの評判が全体的に良くないのも気になった。商品説明にある「剛性が高いので衝撃吸収性が高い」という文も意味不明だ。普通、剛性(撓みにくさ)を高くしたら衝撃は吸収できないだろう。

チタン合金は鋼鉄と同じくらいの強度だが、鋼鉄より軽くて柔らかい。つまり、重量比強度が高くて重量比剛性が低い。よって、鋼鉄製と同じ強度の構造にすると軽くなり、鋼鉄製と同じ剛性にするなら中空で太くする必要がある。ブロンプトンのTモデルのフレームが軽くて太いのはそのためだ。一方で、無名中華チタン製の方は、写真で見る限りフレームが太くなってはいない。重量が56%に軽くなっているので、鉄の比重とチタンの比重の比(7.8:4.5 = 1:0.57)を考えると、厚さは純正と同じくらいだろう。クロモリ鋼とチタンα+β合金の強度は同じくらいだ。よって、材としての強度は同じくらいで、剛性は半分くらいになっていると予想できる。とはいえ、製品としての耐久性は構造と製造品質によって決まる。実際の耐久性は様々な状況で破壊試験をしないと分からない。無名メーカーのは十分な試験をしているのかどうか怪しい。ここで、おそらく各種の破壊試験に加えて長年の使用報告を得て改良されているだろう純正品ですら破断したことを思い出そう。走行中にフレームが破断するというのはなかなか恐ろしい経験だ。ただし、破断したのは残念な一方、破断しながらもしばらくは違和感がある程度で普通に走行できていたことは評価すべきだ。つまり、亀裂が一気に進行せずに粘りを見せたのだ。もし一気に破断して、その影響で逆側のパイプにも負荷がかかってそちらも連鎖して破断していたなら、落車事故に繋がっていただろう。鋼鉄は破壊の進行が緩やかだと言われるが、今回それが生かされたとも考えられる。それもあって、ここはリスクを取らずに、重量より信頼性を重視して純正を選んだ。重いのは難点としか言いようがないが、頑丈さはブロンプトンの製品概念の中で最重要要素の一つだから、それを妥協するのは違う気がする。
余談だが、自転車や単車や自動車などの補修をすると、テセウスの船という比喩を思い出す。古代アテネでは建国者テセウス王が使った船を永らく保存していたが、補修のために部品を取り替えていったら、元の部品が一つも無くなっていた。その物体は果たしてテセウスの船と呼べるのか。ブロンプトンの補修も同様で、元の製品の部品を一つ一つ取り替えていく過程である。猛者になると、メインフレームもフロントフレームもリアフレームもハンドルもシートポストも、それぞれ他社製のチタンやカーボンのものに換装してしまったりする。それはもはやブロンプトンじゃなくてブロンプトンクローンなわけだが、両者の境界は曖昧だ。ところで、BWC(Brompton World Championship)の参加資格でカスタマイズは禁止されていないが、ブロンプトンで参加することは要件になっている。先述のようにほぼ全ての部位を換装した機体は断られそうな気がするが、じゃあメインフレームだけ残してあるならどうだろう。主催者に聞いてみたいところだ。私のは少なくともメインフレームとフロントフレームとリアフレームが純正なので、一般論としてブロンプトンの体は保っていると思う。
論理を飛躍させて、ブロンプトンを概念または規格と見做すのはどうか。例えば、UNIXは規格であり商標だが、それを標準化したPOSIXがある。POSIXに準拠したLinuxは、厳密にはUNIXではないにもかかわらず、UNIX系OSの標準的地位に収まっている。今や、「LinuxはUNIXじゃない」と発言すればむしろ偏屈者のような扱いを受けるくらいだ。ならば、ブロンプトンクローンだって、ブロンプトンの部品間の接続性に互換性があり、ブロンプトンと同等の利便性を提供しているならば、ブロンプトンと呼んでも差し支えないのではないか。エスカレーター、ホッチキス、オセロ、サランラップ、ジッパー、バンドエイドなど、商標名が一般名詞化した例は枚挙に暇がない。ブロンプトンもいずれ三つ折り折り畳み自転車を示す一般名詞になるかもしれない。
ブロンプトンと呼べるかどうかとは別に、同一機体と呼べるかどうかという議論がある。私はおそらくこのブロンプトンに一生乗るだろうが、いずれフロントフレームがダメになったら換装し、メインフレームがダメになったら換装するだろう。そうなると、元の部品がほとんどなくなることになる。まさにテセウスの船だ。なんとなくだが、私はそれでも同一機体であると感じるような気がする。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。つまり、流れている水の分子は常に入れ代わっていても川の名前が変わらないように、その存在を観測する人間が連続性を認識している限り、それは存在し続ける。学校や会社やアイドルグループも、構成員が入れ替わっても、場所が変わっても、同一存在と認識され続け得る。結局のところ、定義と気持ちの問題であって、こんなのは哲学ってほどの話じゃない。
閑話休題。結局、サイクルサービスおおやまで純正リアフレームのマットブラックを調達した。最後の在庫品だそうで、夏までは入ってこないとのこと。危なかった。

部品が到着したので、まずは重さを測った。換装前の2016年式のリアフレームは800.0gで、換装後の2023年式のリアフレームは797.2gだ。古い方が泥や油の付着や材の酸化で重くなっていたのか、モデル間の違いなのか、単なる製品誤差範囲なのかは分からないが、2.8gほど軽量化したことになる。


2016年モデルとそれ以後のモデルでリアフレームの形状が微妙に異なるらしい。新しい方がパイプの端とホイールアクスルの保持位置の間の距離が大きいため、スプロケットのクリアランスが大きくなっているっぽい。これはより大きいスプロケットを使えるようにするためらしい。とはいえ。この辺りは個体間の誤差が大きいらしく、実際にどの大きさまでのスプロケットがつけられるかは試してみないと分からない。

組み立てを行った。キャリアローラーとサスペンションブロックをリアフレームに組み付けてから、リアフレームをメインフレームに取り付けて、プッシャーとシフターワイヤーごと取り付けて、ブレーキと反射板を取り付けて、マッドガードを取り付けて、ホイールを取り付けて、最後にチェーンを取り付ければ完成だ。面倒ではあるが、取り外し時の部品の配置を覚えていれば難しくはない。ワイヤーを通す位置とかは予め写真に撮っておいた方が後で混乱が少ない。説明書一式はこのサイトにある。

リアフレームのヒンジのボルトは、ネジの緩み止め剤をを塗布してから締め込むことが推奨される。ネジの回転面と稼働方向が同じなので、しっかり締め込んだとしても緩む可能性が高いからだ。走行中にヒンジのボルトが外れると恐ろしいので、ここはちゃんと守ろう。ただし、緩み止め剤の強度は低強度または中強度に抑えるべきだ。高強度や永久強度のものを使ってしまうと、ボルトを破壊しないと外せなくなるからだ。低強度をしっかり目につければ強度的には問題ないし、この製品は200度に熱すると緩む旨が明記してあるので安心だ。

私の場合、ブレーキケーブルとシフターケーブルとディレイラースプリングが劣化していたので、それらも換装する必要があった。ケーブルを移植する場合、内部のワイヤーからケーブルを引っこ抜いてから、移植先に設置したワイヤーにケーブルを通すという作業になる。しかし、ワイヤーが劣化して先端が変形していると、ケーブルを通せなくなってしまう。よって、リアブレーキのケーブルとシフターのケーブルを換装した。各2500円だ。また、外装3速化していたこともあり、劣化したディレイラースプリングだと変速調整がうまくできなかったので、それも換装した。2200円だ。ディレイラースプリングはバネが同軸で二重になっている面白い仕組みなのだが、各々のバネが劣化しているとプッシャーを押す力が不足して、変速がうまくできなくなる。プッシャー方式のディレイラーの調整は本当に厄介で、今時こんなのを使っているのはブロンプトンくらいだろう。ともあれ、合計7200円の追加出費と数時間の手間を代償として、なんとか以前の機能を取り戻せた。リアフレームを換装しなくてもケーブルやディレイラーはいつか換装しなければならないので、今回が良い機会でもあった。
完成したのがこれだ。当然ながら、以前と全く同じ見た目だ。フレームの色はブラックでなくマットブラックなのだが、純正のマットブラックのリアフレームをつけたので統一感は完璧だ。珍しい色のフレームを選ぶと替えが調達しづらいという問題があると思い至った。その点で定番のマットブラックは無難だ。また、ブラックよりマットブラックの方が、小汚くなっても目立たないのが良い。自転車もカメラも服も、ちょっと小汚くなっても格好いいものが私は好きだ。

乗り味も全く一緒だ。以前と何も変わらないので金だけ失って損した気分ではあるが、また8年間耐久すると期待できるなら良いだろう。後輪の衝撃吸収性に関してはリアサスペンションブロックが多くを担っているため、リアフレームの剛性を変えたとしても体感できない気がする。チタン化も捨て難く、軽量化しておけば良かったと思うこともあるが、重くて頑丈であることは自分で選択したのだから、割り切るしかない。
今後は縁石への乗り上げの際にはもっと気を遣うことにする。そもそも縁石に乗り上げないで済むような経路を選択すべきだ。どうしても縁石に乗り上げるにしても、なるべく斜めに乗り上げないようにすべきだ。どうしても斜めに乗り上げなければならないなら、速度を落として衝撃を弱めるべきだ。バニーホップやジャックナイフの要領で後輪を浮かせようとしてもだいたい失敗するので、大人しく速度を落とした方が良い。おそらく、フレームの各部位は、上下方向や前後方向の衝撃には強いが、左右方向の衝撃には弱い。接合部の板状の部分が前後上下に広がっていることや、板状の部分とパイプ状の部分の前後の接合部が上下に広がっているのがその証左だ。よって、左右方向に力がかかる事態は極力避けるべきだ。
ブロンプトンの修理中はロードバイクに乗っていたのだが、ロードバイクの速さは素晴らしい。ろんぐらいだぁす!にて主人公に羽が生えて疾走する描写があるが、まさにそんな感じだ。低空飛行で飛んでいるかのような錯覚すら覚える。そして、ロードバイクに比べると、やはりブロンプトンは遅い。尻も痛くなりがちだ。なのに、これでロングライドしたくなっちゃうのは何故だろう。遅いのがむしろ良いのか、もっと遅そうなのに意外に速いのが良いのか。ロードバイクがブロンプトン並みに手軽になるとか、ブロンプトンがロードバイク並みに速くなるとか、そんな夢を見てしまう。
まとめ。ブロンプトンのリアフレームが破断したので、新しいものに換装した。純正リアフレーム自体は31999円で手に入る。ヒンジのボルトを外すのに94円のアーレンキー2本と650円のハンダごてを買ったが、それ以外に特殊な工具は必要ない。作業を自分でやれば、出費はそれだけで済む。店に頼むよりはだいぶ安いだろう。
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