BRM523宇都宮600 東関東

4回目のブルべにして、SR獲得へのラスボスとなる600kmに挑んだ。宇都宮から那須塩原に北上し、そこから一気に千葉の一宮まで南下して、海沿いを走って銚子まで北上し、霞ヶ浦や筑波山の脇を通って羽生まで西進し、また北上して宇都宮に戻るという8の字のコースだ。結果として、34時間47分で完走できた。その振り返り。


作戦立案

前回の400kmブルベでは1番時計を目指して若い走りをしてしまったが、それを達成したことで若い欲求は満たされた。今回は考えうる限りの老獪な走りをする。ウサギとカメのカメ作戦の真髄を達成する。そのためには、以下のKPIを設定する。

  • 全行程で心拍数Z2負荷である135bpmを上限にし、平均130bpmを目標にする。
  • 全行程でパワーL2負荷である168Wを上限にし、平均150Wを目標にする。
  • PCの滞在時間は20分とする。消化を開始し、乳酸を除去し、尻と首を休ませる最低限の時間だ。
  • 栄養補給戦略を遵守し、計算外の食事はしない。水分は発汗等に応じて適宜調整する。

厳密なペース管理をするには、キューシートをしっかり読み込んだ上で、各POIに到着する目標時間を設定する必要がある。そのためには、大枠となる必須項目(must have)を洗い出した上で、それを達成しやすくするための努力項目(nice to have)を付加していくことになる。必須項目は以下のものだ。

  • 各PCのクローズ時間に間に合わせる。
  • 300km地点の宿泊施設に予約時間の少し前に到着する。
  • グロス20km/hで進行する

300km先にグロス20km/hで到着するのなら、それは出発から15時間後だ。6時に出発するのなら、21時に到着することになる。よって、快活クラブ茂原東部台を21時に予約した。開始時間の30分以内にチェックインしないと自動キャンセルになってしまうが、指定時間より早く着いても、他の客が居なければすぐ利用開始できる。よって、21時より早く茂原についても問題なく、むしろ若干早く着いた方が長く休めて良い。あとは、キューシートに書かれた各PCでのクローズ時間前の通過を必須項目とするとともに、グロス20km/hでの目標到達時間を算出し、それを努力項目として設定する。

ポイント名距離到着目安滞在時間出発目安クローズ時間
スタート 清原工業団地駐車場0km--06:00-
PC1 ファミリーマート那須塩原豊浦北町店55.1km08:2720分08:4709:45
PC2 ミニストップ岩瀬羽黒駅入口店137.5km12:2720分12:4715:12
PC3 セブンイレブン総和稲宮店179.6km14:3920分14:5918:00
PC4 セブンイレブン成田美郷台3丁目店258.8km18:3020分18:5023:08
宿泊 快活クラブ 茂原東部台店302.2km20:464時間44分01:30-
PC5 ローソン一宮東浪見店314.4km02:0720分02:2702:56
CK1 犬吠埼:白いポストを撮影する386.6km06:0410分06:1407:48
PC6 ファミリーマート銚子川口町店390.3km06:2520分06:4508:00
PC7 セブンイレブン玉造バイパス店455.1km09:5920分10:1912:20
PC8 ファミリーマート羽生三田ヶ谷店539.2km14:3120分14:5117:56
ゴール ファミリーマート宇都宮竹下町店603.6km18:04--22:00

平均150Wで走っていれば、各ポイントには目標時間よりも早く着く可能性が高い。PC1の那須塩原までは登り基調なので目安より到着が若干遅れて、その後のPCでは目安よりも早く到着して余裕が増えていくことになる。その場合でも、PCの出発時刻は到着時刻の20分後にする。PCで長く休憩しすぎると身体が冷えてしまうからだ。ペース配分および完走というObjectiveに対して、適切な範囲の到着時間と厳密な出発時間の遵守がKey Resultになる。遅めに到着するであろうPC1での出発時間を自発的に調整した時点で一番時計を目指すウサギ作戦の誘惑を断ち切れるので、以後のカメ作戦の徹底に専念できるようになる。これこそが400kmでの失態からの学びだ。

全体的に余裕を持ったスケジュールになっているが、宿泊してからPC5のクローズ時間に間に合わせる部分が最もリスクが高い。睡眠時間を短くすればそのリスクは低減できるが、その分だけ残存疲労によるリスクが上がるトレードオフがあるので、現状が最善だろう。全てのPC間の道中において、何らかのトラブルで目標時間に間に合わなさそうな場合には、168Wまでパワーを出すことで帳尻を少しずつ合わせる。クローズ時間に間に合わなさそうな場合には、安全以外の全てを犠牲にして走って帳尻を合わせる。安全が保てない場合には諦めてDNFする。

栄養補給に関しては、各PCでオニギリ1個を食べて、PC間の走行中に特製ドリンク1本を飲むというのを基本とする。150Wで15時間走ると150*15*3600=4860kJの仕事をし、その消費カロリーはだいたい4860kcalとみなせる。基礎代謝が1日1600kcalとすると、1600/24*15=1000kcalも消費される。合計5860kcalだ。走行中に150Wを徹底するならほぼ脂質代謝となるので、体脂肪から60%を捻出し、残り40%である2344kcalの糖質を消費することになる。前日までに2000kcalのカーボローディングをしておく。夜間の基礎代謝で肝グリコーゲンは減るが、消化吸収は夜間にも進むので、夜間枯渇を考えても起床時に2000kcalを保持していると仮定する。その状態で、スタート1時間前に400kcalの朝食を摂れば、消化吸収途中のポテンシャルを含めて2400kcalを持っていることになる。1日目に宿泊地に到着する際に500kcalを残しておくとすると、2400-2344-500=-444なので、最低444kcalを走行中に補給する必要がある。

PCは1日4個あり、オニギリは4つ食うので、170*4=680kcalだ。特製ドリンク(水700ml、イソマルツロース30g、EAA10g、クエン酸1g、塩1g)はスタート時から5回飲むので180*5=900kcalだ。それらをちびちび補給していれば、血糖値は下降と上昇が穏やかになるので、脂質代謝を滞りなく継続できる。ただし、合計1580kcalも補給するのは過剰だ。よって、PCに着いた時に空腹感がない場合には、オニギリを省略する。特製ドリンクも、無理に5回飲まなくても良いことにする。おそらく、宿泊時の残存エネルギーは1000kcalくらいになっているだろう。さらに滞在中の基礎代謝で200kcalくらい消費するだろう。よって、快活で1200kcalを補給してから眠る。これは結構重い食事になるが、胃がほぼ空の状態なので、なんとか食えるはずだ。そうすると2日目にはスタート時と同じカロリー貯金があるので、同じ戦略を継続できる。

今回こそは夜間以外の全行程をハイパーラプス撮影してやろうと思い、Insta 360 Ace Pro 2と20000mAhのモバイルバッテリーを取り付けた。カメラとモバイルバッテリーとアームとケーブルを合わせて600gくらいの重量増加になってしまうが、平坦基調のコースなので大きな問題にはならないだろう。バッテリーは15時間30分くらい持つ計算になるので、予定通りに進行できれば全行程が記録できる。

AJ宇都宮ではルートの公式のGPXファイルが配布されているので、それをサイコンに取り込んでおいた。IGS630は往路と復路が重なると発狂するので、今回こそは往路と復路を分割して取り込んだ。POIを見落とさないように経路にノイズを入れるのとかも含めて、gps.studioで作業をした。

体調管理も万全だ。400kmブルベの後に少し休息を取ってから、地蔵峠を200Wで1時間登ってから買い物してTSS150くらいにする日と、それをせずに麓まで買い物に行くだけでTSS50くらいにする日を繰り返して、CTLを100に持っていった。その直前3日はCTL50にして、CTL96.5かつATL81.5になり、TSBが+15になるように整えた。ここまで乗り込んだのだから、もはや貧脚オジではないということにしよう。健脚や剛脚とは言えないので、凡脚オジということにしおこうか。

ブルベの文脈では、FTPは一定以上あれば十分だ。私の場合、平地でネット平均25km/h以上で巡行できるであろう150Wよりも高い160WくらいのL2上限になるFTPを持てば十分であり、つまり160W/75%=FTP213W以上で十分ということになる。もちろん、FTPとL2上限が高ければ高いほど巡航速度が上げられて有利なのだが、25km/h以上出すと空気抵抗の割合が上がって、投入パワーに対する推進距離の限界効用が急激に下がるので、いくらL2上限が高くても25km/h以上で走っているならパワーを下げた方が得だ。一方で、登坂だと高いパワー投入しても25km/hを超えにくいので、収穫低減の閾値はもっと高い。

今回のコースはPC1まで緩い登りが続く他は全体が下りもしくは平坦であり、600kmブルベとしては最も楽な部類だと考えられる。だからこそ選んだ。FTP=223WかつTSB=+15で望んで、ペース配分と栄養補給が適切にできれば、走りきれないわけがない。スタートからPC1までで自己統制のリズムを作れるかどうかが試金石になる。その後は、のんびり走っても余裕なはずなのだ。向かい風に逆らってパワーを出しすぎないようにも注意すべきだ。結局のところ、速度を見ずに、集団のペースにも合わせずに、心拍数とパワーだけを見て進むのが良い。サイコンのメイン走行画面のレイアウトはそれに合わせて、地図、現在ケイデンス、現在ギア、心拍数、3秒平均パワーという構成にした。

400kmまでのブルベで、DHバーの利用時間が半分以上になっていことを鑑みて、それに最適化すべく、サドル位置を1cmほど前に出し、1mmほど上げた。DHバーを握ると前乗り気味になるのだが、従来のサドル前後位置だとサドルのノーズ寄りに乗ることになるので、接触面積が減って圧力が上がって該当部位の圧迫度合いが大きくなっていた。よって、サドルを前に出すことで接触面積を増やしてそれを抑止した。DHバーを握っていない通常乗車姿勢でも気づくと前の方に座っていることが多かったので、サドルを前に出すことで通常乗車姿勢の乗り心地が悪化するわけでもない。もともとKOPSより前乗りの設定だったが、今回の変更でさらにその傾向が強まり、BB垂線とノーズの距離は3cmほどになった。UCI規定に抵触することになるが、AudaxはUCIとは関係ない。そして、もともとサドルの位置以上に前乗りになる癖があったのにサドルを合わせただけなので、これで私の乗り方やペダリングが変わるわけではない。

当日の集合場所の清原工業団地が宇都宮市街地からは結構離れている。トランポ派には広い駐車場があって便利なのだろうが、電車輪行だと不便だ。最寄りの快活からだと15kmくらいあって、スタート前にその距離を走るのは望ましくない。そこで、最寄りのホテルを探したら、サウテル宇都宮芳賀という格安ホテルが素泊まり4675円で取れた。そこからだと4.7kmで集合場所に行ける。ここのおかげで、むしろ格安ホテルが近くにあるのは好立地と評価が反転した。といっても、長野からだと宇都宮までが遠いのが難点だが。

登坂のパワー戦略

長距離走のマクロ的な視点では、一定のパワーを出し続ける方が自転車は速く遠くに進める。しかし、短い坂道のミクロ的な視点では、最善の戦略が変わる。今回はそれを実践する。それにあたって、以下の思考実験を考える。

  • 勾配5%で100mのレールの坂がある。真空中にあり、空気抵抗はない。
  • 坂の下に停止状態で質量100kgのミサイルがある。
  • 麓から頂上まで移動させるのに、ミサイルにロケット推進力をかける。
  • 使える総ジュールは一定で、上限パワーは一定で、上限を出し続けると枯渇する。
  • 最短でゴールに到着させるには、パワーの入力方法はどうすべきか。

これは弾道ミサイルを宇宙に打ち出す時と似た問題設定だ。答えは、最初に上限パワーを入力して増速し、使い切ったら惰性で進行するというものだ。サイクロイド曲線の落下実験と通底する理屈でもある。ロケット推進でも自転車のタイヤ推進でも結論は変わらない。勾配や距離や質量の具体的な数値も結論を変えない。坂の麓に到達した自転車は停止しているわけではないが、初期状態の運動エネルギーの大小も結論に影響しない。物体には慣性が働くので、パワーを落としてもすぐには速度が落ちないというのが要点だ。ただし、実際に自転車で走る際には空気抵抗があるので、空気抵抗が無視できるほど低速になる急坂を登る場合にのみこの考え方は適用できる。

私は最大パワーをL2上限168Wに限定しつつ、AP(平均パワー)を150Wに近づけ、かつNP(正規化パワー)とAPを近づけてVIを下げるという目標を掲げている。NPの算出には30秒移動平均が使われるが、それは短期的なパワーの変動に対して鈍感になるように敢えて設計されている。短時間だけ高めの出力を出しても筋肉の損傷は大きくなく、代謝が切り替わることもないという理論が背景にある。例えば、150Wで30秒走ることを想定すると、そのスロットで4500Jのエネルギーを使えることになる。仮に最大300Wまで出して良いとすると、極論すれば、最初の15秒でそれを出し切って加速して、その後の15秒はペダリングしないのが最速ということになる。それでは登りきれない坂もあるわけだが、それはエネルギーの総量が足りないということなので、たとえ150Wを30秒出しても登りきれない。その場合、初期加速戦略なら300Wより高いパワーを出すか300Wで踏む時間を増やし、均等戦略なら150Wより高いパワーを出すか軽いギアで回して滞在時間を伸ばすことになる。なお、この話は該当の坂の30秒だけを切り取ったミクロな視点に基づくことに注意されたい。実際の30秒移動平均パワーは後方移動平均として算出されるわけだが、坂の初期で高出力を出している間の30秒平均パワーは坂の手前のサンプルとの平均になるので、それを150Wにするには坂の手前でパワーを落とす必要がある。そうすると平均パワーが下がるので目標値に収束させるためにはさらにその手前のサンプルは150W以上である必要があり、その影響は過去に連鎖的に波及してしまう。事後的にパワーを下げるのはVI上昇の緩和措置に過ぎない。

実際の路上で使いやすいように、モデルを改変しよう。瞬間最大パワーの上限が168Wであることは既に捨てたが、さらにNPとAPを完全一致させるという目標も捨てる。登坂における30秒平均パワーの上限を168Wとし、その区間が発生することでのNPとAPの乖離も許容することとする。そして、登坂における瞬間最大パワーの上限を180Wとする。ならば、どんな坂でも、最初の5秒は180W出して良い。その後の25秒で徐々に落として150Wに収束させる。そうすると、30秒で5025Jなので、平均168W未満になる。実際の運用では、登坂が始まった時にわざわざ踏み込んで180Wにする感じではない。ケイデンスを保ったまま登坂が始まると自然にパワーが上がってしまうので、180Wに達しそうになったらギアを下げるというのをサイコンを見ながら5秒ほど粘って、それを過ぎたらさらに徐々にギアを下げていって150Wに収束させるのだ。この走り方ならば、NPを極端に上げることなく、坂道での滞在時間を短縮できる。最低パワーが150Wなので、軽いギアを選択すれば、ブルベのコース上に現れる常識的な坂なら、途中で止まるほど遅くなることは稀だ。集団で走っている時も、登坂の序盤で急に失速して訝られることが少ない。坂を登りきった後も150W巡航に円滑に移行できる。一方で、30秒で収まらないと分かっている長い坂では、序盤から終盤まで150W以上168W以下のパワーを出し続けるのが良い。逆に、非常に短い坂で、既に25km/h以上で走っていて、150Wのままで走っても頂上で20km/h以上を保てるような場合には、わざわざ150W以上を出して増速する必要はない。

登坂区間でのNPが168Wに近づき、平地区間でのNPが150Wに近づくと仮定すると、4乗平均4乗根であるNPは高い方に引っ張られるがAPは単純な算術平均で算出されるので、NPとAPの比であるVI(変動係数)が168/((150+168)/2)=1.056に近づくことになる。しかし、急坂と平地が細かく繰り返されるような地形は稀なので、登坂の最初の数秒にちょっとパワーを上げるだけでVIが大きく変わることはない。そもそも実際の路上では下り区間や信号停止前の空走区間があるので、APが低く計上され、VIが1.05を下回ることは珍しい。VIを1に近づけることに躍起になるよりは、登坂区間でパワーが上がりすぎないように節制するのと、平地区間でのパワーが下がりすぎないように勤勉に漕ぐことだけを考えた方が良さそうだ。結果としてVIが1.05付近に落ち着けば理想的と言えるだろう。

信号発進でも同じ理屈で時間を短縮できる。発進してから5秒は180Wまで出して良いことにし、その後の20秒で徐々に落として150Wに収束させることが考えられる。ただし、平地における信号発進での時間短縮は登坂抵抗を受ける時間を短くする効果がないので、コスパは悪い。集団走行で後続を詰まらせたくないとか、PCのクローズ時間が間近であるなどの理由があれば実施してよいが、そうでない場合には控えるべきだろう。

出走前

前日は自走と輪行での移動に費やした。上田まで自走して、前橋まで新幹線で行って、両毛線で小山まで行って、宇都宮線で宇都宮まで行って、ホテルまで自走で行った。30kmほど走行していることになるが、TSSは50以下に抑えられているので、むしろ丁度よい。自転車はホテルのフロント横に置かせてもらった。朝に輪行状態の自転車を組み立てる時間はないし、急いで組み立てると不具合が起きがちなので、走行可能状態のまま置くことは必須だ。20時にチェックインして、風呂とサウナ堪能して、21時に寝た。メラトニンとグリシンを飲んで薄着になって英語を聞いていると即落ちした。

なぜか早めの4時くらいに自然に目覚めたので、朝食としてソイジョイ3本を食いながら身支度をした。時間に余裕はあったが、快活での出立準備の予行演習として、軍隊の非常呼集の如く大急ぎで準備してみた。尻にシャモアクリームを塗り、着替えをし、歯を磨く。ドリンクは寝る前に作っておいた。財布、スマホ、手袋、サングラス、ヘルメット、反射ベスト、靴を全て身につける。そして、予めコンビニ袋にまとめておいた荷物一式を持って、自転車にモバイルバッテリーとサイコンとカメラとライトをつけて、すぐ出発できる状態にした。その間20分。個人的に重要と思っているのは、身につけるものと荷物の置き場を集中させて、その他の場所を探す必要を無くすことだ。そうすると何の判断も必要なく機械的に作業が進み、忘れ物も防げる。朝の慌ただしさはストレスとミスを招くが、だからこその習慣と予行演習である。時間が余ったので各地の天気予報を見ていた。1日目は問題なさそうだが、2日目は雨振るかもって感じだった。

ホテルを5時に出て集合場所に向かった。清原工業団地が想定外に広くて、Google Mapsで「清原工業団地駐車場」で検索してもどこだかわからない。よって、公式で発表されている集合場所の座標を正確に把握して、ホテルからそこまでのナビをサイコンに入れておいた。それをやっていなかったら現地で迷っていただろう。

ゆっくり走ってブリーフィング開始ちょい前に現地に付くと、もう大方の参加者が集まっていた。600kmブルベともなるとそれなりの走力がある人々が集まるわけだが、思ったよりもさらに年齢層が高い。自分がちょうど中央値付近くらいなんじゃないか。例によって男性ばかりだったが、女性も1人だけ居た。

受付をしてブルベカードを貰って、ブリーフィングをして、車検をした後に順次スタートとなる。ウェーブスタート方式で、私はウェーブ3の6時10分スタートとなった。序盤で大きいグループが形成されないのがこの方式の利点で、序盤からパワー管理を徹底した私にとってはありがたい。

PC1まで

宇都宮から北上して、高根沢、さくら、大田原を抜けて那須塩原に向かった。600kmとなると当然皆がペースを管理するカメ作戦の範疇で走るわけだが、それでも序盤は全体的にオーバーペースだった。結果的に私より到着時刻が遅かった人が多数のはずだが、少なくともPC1までは私よりも大多数が先行していて、私がしんがりなんじゃないかと思ったくらいだ。L2遵守のペース管理をしているがFTPが高いので余裕で私より速いペースになる「健脚カメ」と、私のように凡脚だがL2を徹底して完走確率を上げる「凡脚自覚カメ」、私と同等程度のFTPだが敢えてL3領域で貯金を稼ぐ「ストレッチカメ」と、パワメなど見ずに気持ちよく走ってペース管理する「野生カメ」が混ざっているように思う。後半の二者はウサギに近い戦略でもあるが、長時間の休憩を要したり途中で潰れるほどのオーバーペースにはなっていないことがカメたる所以だ。とはいえ、最終的な最速は健脚カメ群で、次いで凡脚自覚カメ群になることは予想できる。

上り坂を200W以上出して登り切る人が多い。私も集団に交じって後ろに誰かがいる場合にはそうなってしまうことがあるが、私の戦略にとって出しすぎの範疇になる。なので、なるべく後ろに人が居ない状況が望ましい。それは、特に考えなくても達成されることとなった。ウェーブスタートなのもあるが、600kmともなるとみんなが自分のペースで走り、それは人によって自然に違うので、ほとんどの区間がソロ走行になった。序盤からソロになったのはちょっと意外だったが、ペース管理をする上では明確に楽になった。

PC1のファミリーマート那須塩原豊浦北町店には8時39分に着いた。グロス20km/hを基準に引いた当初の予定よりは遅れているが、予想通りでもある。昆布オニギリを食って、特製ドリンクを作って、しっかりと休んでから20分で出発した。やはり20分でも休むと違う。そのおかげか400kmブルベで感じた首の凝りを今回はあまり感じなかった。

PC2まで

国道294号号に沿って南下して芳賀や益子町を通って桜川まで走った。全体的に下りなので、とにかく速度が速まった。VIを低く保つにはAPを高く保つ必要があり、それには下りでも漕ぎ続けないといけない。このように数値を優先する考え方は完全に本末転倒であり、実際やってみると不必要に速度を出すことになり、非効率だし危険だ。なので、常に150W出すのは控えて、100W以上を保つように心がけた。1日目は30km/h以上で2時間53分も走っていた記録があるが、その7割方はこの区間で出していたと思う。筑波山が見えてくると、茨城に来たのだと実感する。

PC2のミニストップ岩瀬羽黒駅入口店には11時53分に着いた。PC1では予定より12分遅れだったのに、PC2では予定より34分も早い。下り基調で150W出せば時速35kmとか82.4kmを2時間54分で走ったので、グロス28.4km/hとなる。ここでもいつもの所作をして出発。

PC3まで

国道50号やら7号やらに沿って、筑西を経て古河まで南下した。この区間も下り基調なので、パワー控えめながらかなり高速に走り抜けた。長閑な農村と郊外の市街地の印象がある。

PC3のセブンイレブン総和稲宮店には14時ちょうどに着いた。

PC4まで

堺町を抜けて利根川沿いの土手と柏の農道をひたすら走って成田まで。利根川沿いの土手を20kmくらい走って激しい逆風に晒されたわけだが、とにかく辛かった記憶がある。最初の5kmくらいは広々として気分が良かったのだが、あまりに景色が変わらないのと、風で身体が押し戻されるのとで、意志力が試される場であった。無の境地で走るばかりだ。

その後に柏から我孫子に至る6.5kmくらいの広域農道を走ったわけだが、ここも辛かった。まず、入口も出口もわけのわからん狭いゲートでボトルネックが作られている。そして、路肩がない。対面通行で車がギリギリすれ違えるかどうかの幅員しかないのに、白線のすぐ外側が田んぼで、路肩がないので、車のために避けて上げることもできない。さらに、白線の内側も荒れていたりバンプが設けられていて、尻をひたすら痛めつけてくる。追い打ちで逆風と横風と車の走行風が襲ってくる。ここは無の境地になっている場合ではなくて、とにかく安全に走り抜けることに気を使った。

農道のハイパーラプス動画を切り出してみた。二輪免許の検定の平均台走行みたいなことになっているのがおわかりいただけるだろう。カメラの手ブレ補正のおかげでかなり安定した映像になっているが、実際には車体とカメラは上下左右に揺れまくって走っていた。 www.youtube.com

PC4のセブンイレブン成田美郷台3丁目店には17時43分に着いた。やっと小休止できると思って、ほっとした。この区間が今回のブルベで最も辛かったと思う。いつもの儀式をして、出立。日が傾いてきてここから先は冷えると思ったので、モンベルのトレントフライヤーを羽織った。

宿泊

八街と東金を抜けて茂原まで走った。終盤に真っ暗な農地の中を彷徨っていた印象が強く残っている。

農地を走っている途中でモバイルバッテリーとアクションカメラのバッテリーが全て切れた。20000mAhの給電と1800mAhのバッテリーを合わせた構成では15時間のタイムラプス撮影はできないことがこれで判明した。事前の想定よりも早く切れたわけだが、USBの給電効率が想定より低いのか、夜間で感度上昇したのが原因なのか、よくわからない。いずれにせよ、全行程を取りたいなら30000mAhくらい必要ということだ。とはいえ、日没後の映像は全く面白くないので、夜間撮影を諦める方が合理的だろう。

宿泊値である快活クラブ茂原東部台店には20時11分に着いた。事前の予定では直前のコンビニで夕食を買っておくつもりだったのだが、それを逃して快活に着いてしまった。

てことで、夕食にはゼリーやプリンを予定していたのだが、快活のスペシャルトルコライスになった。1200kcalくらい摂れそうなものを選んだらこうなった。かなりの量だが、なんとか食べきった。

シャワーを浴びて、歯を磨いて、メラトニン飲んで、22時に就寝した。チェアタイプの完全個室だったが、背もたれを倒すと完全フラットになるので、問題なく眠れた。フラット床タイプの部屋より好きかも。疲れていたこともあり、即落ちした。なお、メラトニンの血中濃度は30分後に最大になり、半減期は30分から1時間と言われているので、入眠直前に飲む必要がある。そして入眠後3時間で1.5%から12%の血中濃度に落ちるので、仮眠で摂取しても問題ない。

翌日1時30分に仕掛けていた目覚ましで起きた。3時間半の睡眠ということになるが、頭は妙にすっきりしていた。前日のトルコライスもちゃんと消化されて、胃もたれを感じることもなかった。しかし、当然ながら、身体がその程度で全快することは望むべくもない。普通に重い脚を感じつつも、速攻で身支度した。事前の想定通りに作業して15分足らずで出立。

PC5まで

快活を出たら、雨。ザーザー降るというわけでもないが、霧雨や小雨とは言えない程度に降っている。雨具としてはトレントフライヤーで上半身を覆うくらいしかできないのだが、それで我慢して走り出した。レインパンツは太腿が擦れるなどしてそれ自体がDNFの原因にもなるので敢えて持たないようにしていた。下半身はずぶ濡れになるが、気温が高い時期ならば冷えが問題になることはない。気温は日によって違うのでリスクは高いのだが、幸いにしてこの日は夜明けの寒い時間帯まで問題なかった。

ハイパーラプス撮影は、ここで中止せざるを得なかった。モバイルバッテリーの充電はしておいたが、カメラは防水でもモバイルバッテリーは防水ではないので、とてもじゃないがこの雨の中では使えない。

PC5のローソン一宮東浪見店には1時52分に着いた。ここのクローズ時間に間に合うかどうかが最大のリスクだったわけだが、余裕で間に合った。ペース配分としての勝ちはこれで確定した。ニヤつきながらコンビニの写真を撮っていたら、地元民らしき人に、「自転車と一緒に写真とってあげようか」と言われたのでお願いした。変人だと思われたかもしれないが、反射ベストとサイクルヘルメットのオッサンがコンビニに居たらブルベの人ですよ。

CK1まで

一宮町、長生村、白子町、九十九里町、旭を抜けて銚子に向かった。九十九里有料道路があるおかげで海が全く見えない飯岡一宮線をひた走った。どのみち夜中だし雨だしで風景を見るどころではなかったが。旭市に入ったところで夜が明けてきた。雨で気持ちが萎えそうだったので、途中のコンビニでコーヒー休憩した。コーヒーは胃が荒れるリスクもあるが、今回はむしろ胃が落ち着いた感すらあった。出発時のブリーフィングで犬吠埼の日の出を見られたら良いという話を聞いていたので目指そうかと思ったが、空が白んできた時点で残り40km以上あったので諦めた。おそらく仮眠を後回しにしないと日の出には間に合わないだろうと思っていたが、休憩中にTwitterを見たらそれをやっている人が居て驚いた。

屏風ヶ浦と犬吠埼を繋ぐ銚子ドーバーラインという道が、とても景色が良かった。雨でなければここを颯爽と走るハイパーラプスが撮れたのにと惜しく思う。

CK1の犬吠埼には5時38分に着いた。フォトチェックの条件である白いポストを撮影。無駄にいろんな構図で撮ってしまった。さらに、灯台の周囲を散策したり、結構ゆっくりしてしまった。

嬉しいことに、ここで雨が止んだので、ハイパーラプスの撮影を再開することにした。モバイルバッテリーを固定し直して、配線を直して、アームの角度とカメラの画角を調整してといった作業をしていたらさらに時間を食ってしまった。

PC6まで

CK1からPC6までは近く、海沿いに銚子市内を走るだけだった。今回のコースで海面をちゃんと見ながら走れたのはこの区間だけだった。

PC6のファミリーマート銚子川口町店には6時11分に着いた。CK1で既に休憩していたので、オニギリとドリンク補充だけして15分で出発。ここで5分削ることに何の意味を見出したのかは覚えていない。ちゃんと20分休むべきだった。

PC7まで

銚子を出て国道124号をひたすら北上してから、利根川と北利根川に沿って霞ヶ浦に至り、東岸の国道355号に沿って行方まで走った。銚子大橋ってのが格好良かった。

利根川と北利根川のサイクリングロード。例によって田舎のサイクリングロードは舗装が悪くて尻を痛めつける。もうちょい予算使ってくれー。

国道355号。広域地図だと霞ヶ浦東岸を走っているように見えるのだが、実際には堤防のさらに東の国道を走っているので、霞ヶ浦は全く見えない。

PC7のセブンイレブン玉造バイパス店には9時28分に着いた。そこで久しぶりに参加者に遭遇したのだが、後で考えると、おそらくその人が一番時計なのだと思う。オニギリは食ったが、ドリンクは飲みきっていなかったので補充は省略して出発。

PC8まで

霞ヶ浦から離れてひたすら西進して土浦やつくばや境町などを通って羽生まで走った。霞ヶ浦大橋で、まともに霞ヶ浦を見渡せた。

ここまでずっとソロで走ってきたわけだが、信号待ちで「お疲れさま」と後続の参加者に声を掛けられて驚いた。一定ペースで走ることで後半捲っていくはずの私が他者に追いつかれるというのは珍しいので、後半は油断して走りながら懐メロ歌唱をしてしまうほどだが、2日目にして初めて追いつかれた。てことは、私がじわじわ遅くなっているか、相手がじわじわ速くなっているかだ。確認すべくちょっとペースを上げて150Wベタで漕いでみたところ、余裕で追走されたので、後者だと推定できる。私より走力があるのに後ろにいたということは、どこかで長々と休んでいたということだ。健脚ウサギ作戦みたいな類型も考えてもいいかもしれない。

PC8のファミリーマート羽生三田ヶ谷店には13時49分に着いた。ずっと低出力で走っているので腹は減っていないのだが、いつも通りオニギリとドリンク生成をして出発。

ゴールまで

国道4号線に沿って古河と小山と下野を通って宇都宮まで北上する。交通量は多いが一級国道だけあって舗装が良く、DHバーを握って150W台で進んだ。日没前にゴールするというということを考えても時間的な余裕は十分だったが、あわよくば先にPC8を出たウサギ氏に追いついてやろうと思ってちょっと張り切って走った。舗装が良いと尻が痛くないだけで本当に楽だ。

宇都宮市に入ったくらいのところでウサギ氏に追いついたのだが、その数分後には千切られた。おそらくPC8の直前で私が考えたことと似たようなことを考えたのではないだろうか。150Wでは届かなかったので、追走プレーは諦めた。

ゴールが近くなってくると日も傾いてきて、妙にセンチな気持ちになってきた。残り100kmの地点では早く終わらないかなと思っていたのに、残り10kmになると、もう終わっちゃうのかと思って名残惜しい気持ちになる。自力で長距離走るというのはそれ自体が快楽であり、小一時間で確実にゴールすると分かって重圧から解法されると、尻の痛みも忘れて、残りの風景を楽しもうという気になる。

ゴールのファミリーマート宇都宮竹下町店には16時57分に着いた。感動のゴールである。喜び爆発というよりは、「600kmやり遂げたんだなぁ」というジワジワした達成感と安堵感があった。件のウサギ氏と喋ったのだが、「楽しかったぁ」と語っていたのが印象的だった。これは私も同じ気持ちで、実際には辛いことの方が多かったはずなのに、ゴール直後には既に楽しかった思い出に変わっているのだ。

ここまで昆布オニギリしか食っていないわけで、ゴールでは絶対にクリームデニッシュを食ってやろうと思っていた。やはり、糖質と脂肪の塊は美味い。ゴール直後にも胃腸が元気で好きなものが食えるのは、まさに栄養補給戦略の勝利と言えよう。脚は売り切れ気味だったが、高出力を出さなければまだまだ走れる状態だったので、パワー管理にはまだ余裕があった。

ゴール後に集合地点まで戻って認定を受けた後、スタッフの方々と喋った。用意していただいたワッフルやらのお菓子を食べつつ、走行時の苦労話を聞いてもらった。柏の農道はコースから外した方がよいのかという話に対してウサギ氏が「いや、あれがあってこそ精神修行になっていいんです」と言っていて、確かにと思った。思い返してみると、辛い場面ほど笑えてくる。急坂やら逆風やら悪路やらに耐えるというとマゾヒズムと関連づけられがちだが、屈服の美学とブルベのそれは真逆だ。逆境を克服する挑戦と成長と自律と自己肯定のナラティブとして捉えるべきだろう。平たく言うと、適度な難易度があり、それを何とかしてクリアするからこそ面白いのだ。そんなこんなで、素晴らしいコースを用意して運営していただいたスタッフの皆さんには改めて感謝申し上げたい。

データ分析と振り返り

1日目は、走行時間11時間51分で、ネット平均時速25.6km/hだった。平均心拍数=111bpm、平均ケイデンス=61rpm、AP=128W、NP=135W、VI=1.054、IF=0.61、TSS=434、消費カロリー=6472kcalだ。パワーゾーン分布は、Z1で3時間26分、Z2が6時間55分、Z3が1時間18分、Z4以上は11分だ。折れ線グラフを見ると、日没までは150W付近で巡航できていたことが確認できる。

2日目は、走行時間12時間45分で、ネット平均時速23.6km/hだった。平均心拍数105rpm、平均ケイデンス=57rpm、AP=109W、NP=116W、IVI=1.064、IF=0.52、TSS=344、消費カロリー=6027kcalだ。パワーゾーン分布は、Z1で7時間59分、Z2が4時間12分、Z3が26分、Z4以上が2分だ。折れ線グラフを見ると、夜中は110W付近の低出力だったが、日出の後は徐々に出力が上がって、終盤に近づくと150W巡航に近い状態に持っていけたことが確認できる。

総じて、600kmブルベの戦略のお手本のような走りができたと思う。すなわち、1日目にネット平均時速25km/hくらいで走って貯金を作り、その時間で300kmから400kmの間で仮眠を取り、翌日の最初のPCに何とか間に合わせた後は、流して走ってゴールを目指す。1日目でZ3が想定より多くなってしまったのが2日目への疲労の持ち越しに繋がったのだろうが、それでも2日目のネット平均速度は十分出ていたわけで、実践としても合格点と言えるだろう。

1日目に若干ながらパワーを出しすぎた区間があったのには、二つ原因がある。ひとつは集団に付いていた時に登坂などで無駄に踏んだことと、もうひとつは利根川河川敷と柏の農道の逆風だ。前者はもっと慣れれば解消できるだろうが、後者は不可抗力だ。L2上限付近で走っていれば、たまにL3の負荷が出るのは仕方のないことだ。それに耐える体作りをしておいたので問題ない。2日目は半分以上の時間をL1領域のパワーしか出していなかったのに十分な速度が出ていたのは意外だった。疲労が残っている状態でもL1上限である123W程度なら何の苦労もなく出せて、それでも時間的赤字にはならないので、2日目は楽勝だなと思った。1日目もAPを110Wに抑えれば疲労が少なく最もコスパが良い走りになるだろうが、それだと不意のトラブルに対処する時間がなくなるので、今回の戦略とその実践は理想的だったと思う。カメ作戦をほぼ完全に会得したと言って良いのではなかろうか。

2日間のTSS(トレーニングストレススコア)の合計が778で済んでいるのも特筆すべきだ。400kmブルベの記録からTSS=1200くらいを覚悟していたが、NPとVIの低さから示す通りに安定的なペース配分をした結果として、IF(強度係数)とTSSが下がった。400kmより600kmの方が楽だという人が一定数いる原因のひとつをここから推測できる。多くの人は300kmや400kmでペース配分の重要さを痛感し、エゴを制御すべきという強力な動機づけを得るだろう。その経験をもとに600kmの1日目に挑めば、無茶な走りにはならない。2日目は疲れているので高出力で回す気分にならない。1日目の貯金で数時間の仮眠時間を捻出できる程度の走力があれば、2日目に脱力してグロス平均18km/hくらいで進行しても余裕だ。とはいえ、600kmを走破した今では、冷静に考えると、400kmの方が楽に走れると分かる。脱力して全体をグロス平均18km/hくらいで進行しても間に合うのだから。

平均心拍数が1日目も2日目も目標値の平均130bpmよりだいぶ低く、両日ともZ1領域だ。これは心肺機能にはまだまだ余裕があり、全体的に言えばアクティブレストをしていたようなものだ。主観的にも、全行程を通じて息が上がると感じたことは一度もなかった。ゴールした後も、主に大臀筋に局所的な疲労感は感じたが、身体がだるいとは感じなかった。APもNPも低かったというのが主因でばあるが、心拍ドリフトの問題が全く起きなかったというのも重要だ。水分をこまめに取って脱水症状を防いでいたし、適宜薄着になって深部体温の上昇を抑えていたのもあるが、CTLを高めた結果として心肺系の持久力を上げていたのも貢献していただろう。

400kmは夜間走行の時間がやたら長いが、600kmだと2日合計で数時間で済む。つくづく思ったが、私は夜間走行が好きではない。景色がよく見えないし変わり映えしないから肉体の苦痛に意識が向きがちだし、サイコンの残り距離ばかり見て主観的時間経過が遅くなるし、路面が良く見えないから凹凸を踏んで尻が痛くなるし、DHバーが使えないし、速度も出せないし、道間違えもしやすい。昼が長く夜が短く、暑くも寒くもなく、雨の確率もそんなに高くない5月末は600kmに挑戦するに最適な時期だった。

栄養補給に関しても、完璧だった。全てのPCで本当にオニギリ1個だけしか食わなかった。あとは特製ドリンクを飲んだだけだ。それでも全く空腹にならなかったし、胃もたれもなかった。宿泊地でトルコライスを食べても、ゴール後にクリームパンやらワッフルやらのお菓子を食べても胃がまったく問題なかった。要は、走行時の固形物は最小限に留めるとともに、パラチノース入りドリンクで血糖値を保つのと、走行前のカーボローディングや宿泊時の食事でグリコーゲンを貯めておくべきということだ。おそらくこの戦略で3日間以上のブルベも行けるだろう。ただし、より長期間になると筋肉のカタボリズムが問題になるので、通常の食事に近づけてタンパク質やビタミン・ミネラル類を摂取するべきだろう。

リザルトシートを見ると、完走率71.4%だった。それが高いのか低いのかはよくわからないが、おそらくコース的には低難易度だったはずなので、2日目の雨がDNFの主要因になったのではないか。私の雨の対策はトレントフライヤーだけだったが、気温が高めで身体の芯が冷えなかったので何とかなった。1番時計は33時間台で、私は3番時計だった。あと1時間削るのは困難というか苦行になるし、そもそも競技ではないので、完走できただけで大満足だ。

600kmを完走したことで、SRの権限が得られた。年末の申請を経て承認ということにはなるが、晴れて私もSuper Randonneursの仲間入りということになる。ブルベを始めて4回の走行であっけなく取れたわけが、このブログでひたすら書いている通り、入念かつ執拗な研究と準備をした賜物である。凡脚オジである私でも全コースでかなり余裕を持った記録を残せているわけで、この戦略の妥当性は実証できたと言えるだろう。

SRを取ったからとて彼女ができたり宝くじにあたったり成績が上がったりすることはないし、ブルベを知らない人に言っても変人扱いされるだけの称号でもあるが、長期プロジェクトを成功させたことで自己肯定感が若干が上がった。やれば出来る子だし、実際にやる子だと、自分だけは知っている。そして、これまでの研究の一区切りになった。これからは、完走確率を最大化するコースを選ぶのではなく、純粋に走ってみたいコースに参加することになる。ブルベではない自転車旅もちょくちょくやっていきたい。