BRM530東京600 いってこい御前崎

5回目のブルベにして、SR獲得後の裏ボスとなる600kmにブロンプトンで挑んだ。川崎からずっと海沿いに進んで鎌倉、小田原、伊東を通って伊豆の冷川トンネルを抜けて、沼津からさらに海沿いに進んで富士や静岡を抜けて御前崎まで行き、そしてほぼ同じ道で帰るというコースだ。結果としては、37時間24分で完走できた。


作戦立案

SR獲得へのラスボスであるBRM523宇都宮600はAnchor RE8で完走できた。もしそこで完走できなかったらBRM530東京600をプランBとして発動させる予定だったのだが、その必要はなくなった。しかし、ブルベはSRを取るためにあるわけじゃない。ブルベの何が嬉しいのかは人によるが、私にとっては、他者との共通ルールの中で走ることで自己を相対化できるのと、熟練ランドヌールが設計した自分では選ぶことがないコースの機微に触れられることと、同じ時間と空間を共有する者同士の共通言語が得られることと、事前に構築した理論の実証の場になることが大きい。その上で、平地の600kmを単に完走することは自分にとってはもう挑戦ではなくなっているので、別の挑戦要素を入れたいところだ。そこで、エスターク的な裏ボスという位置づけにして、ブロンプトンで出走することにした。

今回のコースも平坦基調であることが選定理由だ。川崎と御前崎の間を往復するのだが、基本的には海沿いを走るので、ほとんどの区間が平坦となる。目立った登坂は伊豆の冷川トンネルの付近で獲得標高300mほどの区間だけで、それを往路と復路で計2回やることになる。

600kmの基本戦略とその実施は前回で語り尽くし、その実践もほぼ完璧だったので、今回もそれを踏襲する。しかし、ブロンプトンならではの制限については改めて考えておくべきだろう。以下のものがある。

  • 路面抵抗と空気抵抗と登坂抵抗が大きいので、投入パワーに対して速度が出にくい。
  • 直立気味の乗車姿勢と路面からの衝撃を拾いやすいのとで、尻が痛くなりやすい。
  • 小径かつクリンチャータイヤなので、パンクしやすく、修理にも手間がかかる。
  • 長い下りだと、リムブレーキがホイールを過熱してチューブ破裂が起きやすい。
  • ディレイラーの構造が脆弱で、チェーンが外れやその他のメカトラが起きやすい。
  • 変速段数が少ないので、ケイデンスを保ちにくい。
  • 最大変速比と最大ロールアウトが低いので、高速走行できない。

要するに、ブロンプトンはロングライドに全く向いていない車体なのだ。総合的に考えるとロードバイクより1割遅いと考えるのが基本となる(後述するように、工夫すれば実際にはそこまで遅くはないが)。グロス平均20km/hで進行する計画だと破綻する。ロードバイクなら気持ちよく走るだけでネット平均速度23km/hとか出るのに対し、ブロンプトンだとネット平均速度21km/hとかの速度になるだろう。そうすると、仮眠を取り除いたグロス平均速度18km/hくらいで考えておいた方が良い。仮眠を入れると16km/hくらいか。完走することは可能だが、とにかく余裕がないスケジュールになるはずだ。その割には車体が脆弱でトラブルが起きやすい。

走行性能が低いことへの最大の対策は、DHバーを搭載することだ。空気抵抗を削減するとともに、荷重をそこに逃がして尻の痛みを軽減する。ペダルにはMKSのSYLVAN STREAM NEXTにハーフクリップをつけて、引き足での入力ができるようにもする。実際には強い引き足はせずにリカバリゾーンでの負のトルクを無くす「ゼロトルクの引き足」をするという話も以前の記事に書いた。また、ロードバイクからパワーメーターを移植して厳密なパワー管理を行う。敢えて控え目のペースで走って、投入パワーとTSS(トレーニングストレススコア)をできるだけ低くする。1日目はAP(平均パワー)=110W、NP(正規化パワー)=120Wを目標とする。2日目はAP=105W、NP=115Wを目標とする。カメ作戦を越えた、「いのちだいじに」作戦だ。

APとNPの比率であるVI(変動指標)が1.1に近くなるのはペース配分として良くないとされるが、これはギア構成の制約で仕方ない。段数が少ないので、登坂でのパワーの変動が激しくなってしまう。小径車の割には最大変速比が低いので、平地で巡航速度が30km/hに近づいたらほぼ空走状態になり、下りでもずっと空走状態になるので、その間のパワーがゼロとして計上される。結果として、NPは高まりやすく、APは低まりやすい。最大パワーをL2上限である168Wに抑えられれば、今回はVIについては気にしないことにする。まったり走れば自然にTSSを抑えられると楽観的に考える。

ここで注意すべきは、巡航時の目標パワーを110Wにするわけではないということだ、平地巡航や軽い登坂では従来と同じく150Wを基準とし、瞬間的には140Wから160Wの間で変動しながらペダリングする。ただし、下り坂や追い風や減速時などのような踏み込むべきではない時には無理にパワーを高く保たなくても良しとすることで、結果的にAPが下がることを許容するということだ。積極的に低いパワーで走るという目論見ではない。また、前回の記事で詳述した通り、登坂時には30秒平均パワーで168W出ることを許容し、さらにそれが満たされる限りは5秒間180Wを出すことも許容する。VI堅持を捨てることで、メリハリのある走りをすることになるが、それでも脂質代謝に留まるという最適化を施しているのだ。

メカトラブルの対策は、いつも通り修理キットと替えチューブを持っていく他はない。ホイールの過熱対策として前輪だけリムハイトが高いものに変えて、さらにバルブをリムテープで断熱したが、どの程度効果があるのかはわからない。今回は1000m級の峠があるわけでもないので、過熱パンクに関してはあまり心配していない。

あと、地味に恐ろしいのは、ディレイラーのプーリーから外れたチェーンが、プーリーとプーリーガイド(チェーンプッシャー)に囲まれた空間からもなぜか外れてしまう事態だ。プーリーとプーリーガイドの隙間はチェーンよりも狭いのでそこをチェーンが通ることはなさそうなのだが、チェーンがプーリーから外れた状態でペダリングすると、鋼鉄のプーリーガイドを一瞬変形させてでも、チェーンが飛び出てしまうことがある。そうすると、手ではもう直せなくなってしまう。ディレイラーを外してからチェーンを戻すしかない。この作業の予行演習をしておくのと、何か違和感がある時に無理やりペダリングしないというのを心がける。特に、道中で木の枝などを踏んだ際には注意だ。

BRM523宇都宮600の次の週末にまた600km走るわけで、負荷のテーパリングには気を使う。CTL(慢性トレーニングレベル)=96.5、ATL(急性トレーニングレベル)=81.5、TSB(トレーニングストレスバランス)=+15でBRM523宇都宮600を走り、そのTSSは1日目が434、2日目が344だった。宇都宮から自走で帰ろうと思っていたのだが、ダメージコントロールのために控えて、会場から宇都宮駅までと上田駅から自宅までで追加でTSS=50で走った。よって、月曜朝の時点で、CTL=111.4、ATL=169.3、TSB=-57.9になっていたことになる。月曜と火曜でTSS=50のアクティブリカバリーを行い、水木金はそれぞれ0、20、30で休養する。そうすると、土曜朝にはCTL=102.1、ATL=93.4、TSB=+8.7ということで、また好調に持っていける。コーガン式は本当に便利だ。

キューシートを見ながら行動予定を立てた。ランドヌ東京ではPC毎のクローズ時間がないので、ゴール時間だけ守ればよい。よって、距離だけ考えて宿泊地を決められるし、1日目に速めに走って時間貯金を作る必要もない。これはブロンプトンの遅さに都合が良い。グロス平均18km/hで走ることを前提に計画を立てる。1日目の方が体力に余裕があることを考えると、中間の300kmよりも後の、350km付近に宿泊地を設けたい。コースから近い快活クラブを探したところ、370km付近に静岡寿町店があった。個室の予約は既にいっぱいだったが、ブースでも問題ない。もしもブースも入れなかったら次の静岡駅南口店を使えば良い。宿泊地の滞在時間は長めに5時間とする。それを勘案すると、以下の行動計画が成り立つ。

ポイント距離累積経過時間到着予定時間
Start 等々力緑地とどろきアリーナ前0km0時間00分6:00
PC1 ファミリーマート逗子渚橋店47.3km2時間38分8:38
PC2 奥野ダム管理事務所:ダム案内板140.9km7時間50分13:50
PC3 ローソン清水宮加三店229.7km12時間46分18:46
PC4 御前崎:静岡県最南端の碑300.7km16時間42分22:42
PC5 ファミリーマート御前崎佐倉店310.3km17時間14分23:14
宿泊 (到着) 快活クラブ静岡寿町店370.0km20時間33分翌2:33
宿泊 (出発) 快活クラブ静岡寿町店-25時間33分翌7:33
PC6 セブンイレブン清水駒越西店378.2km26時間01分翌8:01
PC7 セブンイレブン伊東中伊豆入口店469.3km31時間04分翌13:04
PC8 ファミリーマート逗子渚橋店560.3km36時間08分翌18:08
Goal ミニストップ新川崎店601.6km38時間25分翌20:25

グロス平均速度18km/hが守れるのかという話だが、多分問題ない。ロードバイクでのグロス平均速度20km/hは実績があり、それより1割遅いという保守的な設定になっている。そして、DHバーの導入で空気抵抗がロードバイクと遜色なくなると、路面が良好な平地ではロードバイクとの差は3%くらいだろう。今回のコースは国道が多いので路面が良い区間が多いはずだ。急坂だと4.4%遅いという経験則があるが、今回のコースはほぼ平坦だ。伊豆の冷川トンネルの手前では168Wを出し続けることになるだろうが、毎日の買い物でやっていることなので何ら問題ない。いのちだいじに作戦でパワーを節約することを考えても、それはトップスピードを削るだけなので、平均速度が著しく落ちるわけではない。

同じくブロンプトンで出たBRM418東京200でのグロス平均速度は17.76km/hだった。機材構成としては全く同じで200kmのグロス平均が18km/hより遅かったというのは不安要素として挙げられるが、あの時は各地の海岸で写真を撮るなどの舐めプというかベテランプレーをしていたので、グロス平均速度としてはあまり参考にならない。その時のネット平均速度が23.74km/hだったことから考えると、ネット平均速度21km/hおよびグロス平均速度18km/hとかいう今回の目論見は妥当と言えそうだ。

先に仮眠して御前崎で日の出を見るという案も浮かんだが、それだと明らかに遅すぎるので諦めた。快活の滞在時間はもうちょい伸ばしても間に合うはずだが、メカトラブル等の対応のためにマージンを取っておきたいので、計画としてはこのくらいが良いだろう。1日目の夜間走行が長いので、そこでの眠気が最大のリスクといったところか。そこさえ乗り切れれば、2日目は楽勝だろう。夜間走行の時間をできるだけ短くしたいので、できれば宿泊地の到着時間を翌1時くらいにしたいところだが、パワー制限の遵守が優先される。400km地点の駿河健康ランドというのも定番らしいが、それだと無駄に夜間走行が長くなる。夜明けとともに走り出せる350km地点くらいが最善であり、370kmというのはかなりそれに近い。

今回はパワー低めにするが、その分だけ長時間走るので、消費カロリーはBRM523宇都宮600とほぼ同等になるだろう。仕事量は、1日目に110Wで18時間走るとすると7128kJで、2日目に105Wで16.5時間走るとすると6237kJだ。エネルギー効率23.9%でカロリーに換算すると数値そのままで単位が変わって7128kcalと6237kcalになる。宇都宮で実証したようにPC毎にオニギリ1個とドリンク1本だけを摂取するという基本戦略で行けるはずだ。PC間の距離が長く、例えば、PC1とPC2の間が93.6kmもあり、PC7とPC8の間は91.0kmもあるが、それらの中間地点にわざわざ補給点を増やすことはしない。これも宇都宮で実証したように、オニギリとドリンクだけの戦略でも摂取カロリーが過剰だからだ。ドリンクのパラチノースとオニギリのレジスタントスターチの難消化性を活用して、腹ごなしのつもりで93.6kmを走る。もちろん、身体に異変を感じたなら臨機応変に対応するが、今までの経験上、問題は起こりづらいと考えられる。

メカトラが起きたら、だいぶきつい。パンクやチェーンの噛み込みなら30分で直せるが、それ以上複雑なことが起きたら制限時間に間に合わない確率が上がる。他のベテラン参加者に助けを求めたとしても、ブロンプトンのノウハウや工具を持っている人はいないだろう。現地の自転車屋でも対応できる場所は少ないだろう。また、雨などで速度が出せない場合もきつい。予報では晴れだが、どうなることやら。それらを総合的に勘案して敢えてブロンプトンを選んでいるのだから、ギリギリの戦いになるのは望むところだ。もう完走率の最大化は最優先ではない。最善を尽くしてDNFになるのなら、それこそが学びになる。

フロントダブルのチェーンリングにはO.Symetricの52TとSugino Cycloid SHC 32Tをつけている。スプロケットは外装2速から外装3速に改造して、11-15-21Tの構成だ。つまり、最も重いギアの変速比は52/11=4.72で、最も軽いギアの変速比は1.52だ。タイヤ外周は1340mmだ。クランク一周で車体が進む距離であるロールアウトは、最大で6.33mで、最小で2.42mだ。一般的なロードバイク((50-34T)/(11-30T)かつ700C*30Cタイヤ外周2146mm)のロールアウトは、最大9.75mで、最小で2.43mだ。比較してみると、今回のブロンプトンのギア構成は高速走行性能が明確に弱い一方、登坂性能は十分ということが分かる。重いギアを80rpmで回しても速度は30.4km/hしか出ず、これは追い風や下りでは軽すぎることを意味するが、いのちだいじに作戦でトップスピードを抑制するので許容できる。今回のコースでは大した登坂はないので、むしろオーバースペックだ。

フロントダブルなのにフロントディレイラーはついていない。フロントディレイラーがあると重くなるし、折り畳みに支障が出るからだ。フロント変速は足でチェーンを押して行っている。よって、フロント変速はここぞという時にしか行わない。今回は、伊豆越えの登坂でインナーチェーンリングを使う他は、アウター縛りで走ることとなる。そうすると実質的に52Tのフロントシングルでの3速運用でほとんどの区間を走ることとなる。そのロールアウトは6.33m、4.64m、3.31mだ。かなりのワイドレシオなので、大抵の勾配に対応できる一方、ケイデンスの細かい管理はできず、単一ギアで60rpmから90rpmまで受け持つ運用になる。楕円チェーンリングのおかげでケイデンスが60rpmまで低まっても膝関節への負担は軽微であり、目標パワーが低いおかげで乳酸がたまらないのでそれを除去するためにケイデンスを上げる必要がないというのが救いになっている。

小径車であるブロンプトンは車輪の慣性力(フライホイール効果)が小さいから巡航が疲れるという指摘がなされることがあるが、それについては以前の記事の考察で否定した通りだ。デッドゾーンで角速度が低下しやすい性質はパワーゾーンで角速度を上げやすい性質で相殺される。また、楕円チェーンリングはデッドゾーンの角速度を上げてパワーゾーンの角速度を下げるので、小径であることによるデッドゾーンでの角速度低下を過補正と言えるほどに解消している。

ブロンプトン用タイヤとしてシュワルベワンとシュワルベマラソンレーサーを持っているが、今回どちらを使うか悩んだ。ワンの方が明確に転がるし軽いし乗り心地が良く、ネット平均速度が0.8km/hくらい上がるだろう。その反面、パンクの確率が跳ね上がる。ワンはガラスや陶器や尖った石を踏むだけでケーシングにそれがめり込んでパンクする。フジイチの途中でそれが起きて撤退した苦い思い出がある。もちろん、パンクしないで走り抜けられる可能性も低くはない。パンクしたとて、0.8km/hが稼いた時間で直すことを考えると、期待値としての完走時間は短くできそうだ。とはいえ、総合的に考えてマラソンレーサーを採用した。パンクに怯えながら全行程を走るストレスと、パンクした際に修理作業をしてその後の予定を組み直すストレスは、身体の代謝をも切り替えてしまう。ワンで速度を稼いでロードバイク勢に張り合う幻想も捨てがたいが、そのようなウサギ的思考から脱却するためにもマラソンレーサーを選ぶべきだ。空気圧は前輪85psi、後輪90psiの中庸の設定とする。悪路での尻の保護を考えるともうちょい低い方が良いが、今回は路面の良い国道が多いので、良路で最も快適な空気圧にすべきだ。

ライト(前照灯)はランドヌ東京の規定通り2灯体制にする。ひとつはを前輪上部に付け、もうひとつはDHバーの下に付ける。ハンドルバーにライトを付ける方が楽なのだが、今回は不可能だ。バックパックをハンドルの前に吊り下げるので、ハンドルにライトを付けるとバックパックに光が遮られてしまう。よって、DHバーの下にタイラップでGoProマウントをつけて、そこにライトをぶら下げる。それならバックパックの前に来るので問題ない。なお、前輪上部のライトは位置が低すぎて、路面を照らす上では不都合が多い。照射角度が地面と平行に近くなるので、地面の窪みの中や突起の向こうが影になって見づらいのだ。よって、基本的にはDHバーのライトを使い、それが電池切れになったらライトを入れ替える。

今回も全行程のハイパーラプス撮影を試みる。ハンドルポストにGoProマウントを付ける方法だとハンドル前に吊り下げるバックパックと競合するので、DHバーの下にタイラップでGoProマウントをつけて、そこにカメラをぶら下げる。DHバーの左アームがカメラで、右アームがライトという構成になる。道路の左端を走ることを考えると、カメラが右側にある方が道路の中心に近くて構図が良い。また、この付け方だとカメラのUSBポートが右側に来るので、ライトと干渉しないで給電できる。バックパックの中にモバイルバッテリーを入れておいて、そこからUSBケーブルを伸ばして給電する。

今回はモバイルバッテリーを20000mAhと10000mAhの2個体制で望む。合わせると570gにもなるが、平坦基調のコースなので許容する。夜の映像が面白くないことは分かっているのだが、記録として全行程を撮っておきたい気持ちになった。サイコンIGS630は20時間は持たない可能性が高いので、その充電が必須だ。20000mAhだけだと、14時間後くらいでモバイルバッテリーが尽きた状態でサイコンが切れると厳しいことになるので、予備としての10000mAhは必須だ。ライトRN800にも逆充電機能があるので、その4000mAhも緊急時には使えるが、ライトに手を出すのは最後の手段だ。

ブリーフィングのPDFを見ていたら、キューシートとゴール地点が違っていたので、主催者の方に連絡したところ、速やかに修正していただいた。キューシートがsingle source of truthなのはブルベの常識なのでそれで間違う人は稀だと思うが、混乱の元は少ない方がよいだろう。

快活宿泊時の行動

快活クラブのブースに入ったら、以下の行動を順に速やかに行う。事前に決めておくことが重要だ。寝るまでの短時間の充電で済むものと、寝ている間に充電するものを予め分類しておくのも重要だ。

  • ブロンプトンを畳む。DHバーはそのまま生やしておく。
  • チェックインしてブースに入り、ブロンプトンも端っこに入れるか、廊下に安全に置けそうな場所があればそこに置く。
  • 持参する充電アダプタでスマホとカメラとイヤホンケースを充電し、快活になぜかあるUSB-Aポートでサイコンを充電する。
  • トイレをすませ、サングラスを洗い、翌日初回のドリンクを作る。
  • シャワーを浴びる。下着をクッション付きパンツからトランクスに変える他は、同じ服を着る。タオルはブース内に干す。
  • 事前にコンビニで買っておいたプリンやエナジーゼリーを食い、プロテインを飲み、メラトニンとグリシンを飲み、歯を磨く。
  • 充電対象をモバイルバッテリー2個とライト2個に切り替える。
  • 充電対象とタオル以外の全ての荷物をレジ袋にまとめておく。
  • 目覚ましタイマーをセットして、耳栓とアイマスクをして、眠る。
  • 目覚めたら速攻で、洗顔、トイレ、歯磨き。その時点で肉体的にも精神的にも覚醒する。
  • シャモアクリームを塗って、クッション付きパンツとその他の衣服や装備を身につける。
  • 朝食用に買っておいたソイジョイ等を食べ、コーヒーを飲んで落ち着きつつ、天気予報等を確認する。
  • 全ての荷物をバックパックに詰め直し、ブース内に忘れ物がないことを指差し確認。
  • チェックアウトして、ブロンプトンを組み立てて、出発。

この行動は、前泊の快活泊とブルベ中の仮眠としての快活泊で同じだ。前泊での行動が予行演習になるので、仮眠の行動が迷いなく行えることになる。慣れると、就寝前の作業を30分、起床後の作業を20分でできるようになる。なお、シャモアクリームよりもトイレを先にしないと、ウォシュレットで流れてしまうので注意だ。また、歯磨きをした後に朝食を取るのは逆にしたいところだが、時短のためには仕方がない。

BRM523宇都宮600では仮眠前の食事に快活スペシャルトルコライス(カツカレー+チキンライス+スパゲティ)を食ったが、正直あれは過剰だった。胃もたれこそしなかったが、食っている途中にちょっと多いなと思っていた。今回の静岡寿町店は店内食事メニューがないので、焼きプリン2個とエナジーゼリー2個とプロテイン30gくらいにする。合わせて900kcalくらいになる。カーボローディングとしてはカロリーが若干少ないが、2日目は距離が短いので問題ない。また、消化が悪いとされるプロテインを敢えて飲むのは、ブルベ自体をトレーニングとして捉えているためだ。スペシャルトルコライスに耐えられたのだから、プロテイン1杯くらいは何の差し障りもない。同じ理由で、前泊の夜にもプロテインを摂取する。

出発前

金曜に電車輪行で東京に向かう。やはりブロンプトンは輪行が楽で良い。DHバー付きでも根本だけ緩めればちゃんと畳めるわけだが、その根本を緩めたり締め直したりするのすら面倒くさいので、DHバーの分だけ膨らんだ状態で、上から袋を被せて済ませた。

今回は上田から大宮まで新幹線で行って、新宿まで埼京線で行って、そこから登戸まで自転車でまったり走り、予定通りTSS=30にした。事前にちょっと刺激を入れるのが良い。パワーを低くすればそれなりの距離を走ってもTSSは上がりにくい。前泊は自由が丘の快活クラブに泊まりたかったのだが、予約が一杯だった。溝の口も蒲田も駄目。なので、ちょっと遠いが登戸駅前店を予約しておいた。21時に就寝し、4時半に起き、5時に出発し、5時半に等々力競技場に着いた。いつもながら逼迫した時程だが、淡々と作業して間に合わせた。

とどろきアリーナに着くと、いつも通り、蛍光色のベストの参加者が集まっていた。ブリーフィングでスタッフの人が言うには、塩分補給として塩分摂りすぎて血管ズタズタになった人がいるから気をつけろとのこと。「ブルベは健康的じゃない」と断言していたのが印象的だった。それには激しく同意する。ブルベに耐えられる身体を作ることは健康に良いが、ブルベ本番の運動負荷は明らかに健康的な範囲を越えている。この点は格闘技と同じだなと思った。強靭な身体を作るのは健康に良いが、その強靭さを極限まで試すのは健康に悪いに決まっている。とはいえ、極限にならないように十分な準備をすればそれも克服できるのが救いだが。

PC1まで

スタート直後は当然ながら集団走行になる。大きめの集団に混じって、流れのままに走った。信号の多い市街地なので、高速走行がそもそもできず、オーバーペースの心配はない。跨線橋などの急坂で出力が上がりすぎないようにだけ注意した。いってこい真鶴で既に走った道なので慣れたものだが、川崎市内や横浜市内をグニャグニャ曲がって走っているように感じる区間だ。地図上で見るとそこまでグニャグニャしてはいないのだが、不思議なものだ。

横須賀市の船越の坂を登って沼間トンネルを抜けて逗子に入るあたりで、これから海が見られると思って気持ちが乗ってくるものだ。

47km地点であるPC1に着いた。8時38分到着予定が、8時33分到着なので、5分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は18.4km/h。市街地で信号が多かった割には良いペースだ。

PC2まで

みんな大好き国道134号をひたすら走る。この時間でも既に交通量は多いが、路肩を爆走すれば問題なし。路肩を集団走行すると危険性が高まるが、気持ちよく走っていたらソロになっていたのでその点でも良かった。江の島やら各地の海岸で素敵な写真を撮りたかったが我慢してかっ飛ばす。

大磯を過ぎると1号線を走ることになる。このあたりは他の参加者に追従したり抜いたりしていた。ロードバイク勢に抜かれないということは、DHバーを握って快走できる区間においては、ブロンプトンはロードバイクと遜色ないということだ。

小田原を通過して真鶴に入ったあたりで、他の参加者に追い抜かれるようになった。一定パワーで走るカメ作戦の私が抜かれるということは、やはりブロンプトンの登坂性能はロードバイクより大きく劣るということだ。途中でめちゃくちゃ速いモールトンに抜かれたが、あのウサギ的な走りは競技系の人がトレーニングで敢えてやっている気がする。

伊豆半島は沈降火山なので海岸線なのに峠が多い。熱海から伊東までやたら登り降りを繰り返しつつ、多数の参加者に抜かれた。自分を抜いた参加者に追いすがる必要性はないのだが、走行性能が伯仲していると、どうしても集団になってしまう。敢えて追い抜いたのなら引き離せるパワーをしばらく継続すべきだが、その余裕はないから、図らずも追従する形になる。

登り下りが頻繁なので足変速のフロント変速をしている暇はなく、フロントはアウター縛りでリアを頻繁に変速しながら走っていた。そんな中で事件が起きた。リアを変速しようとしたら、「バキッ」と音がなって、リアディレイラーを引っ張るワイヤーが外れた。ワイヤーを留めていた締め込みが甘くなっていたのだろう。

これを直すには、少なくともアーレンキーと15mmレンチとラジオペンチが必要だが、後者は携帯していない。道中で100均やらホームセンターやらに寄ってそれらを調達したとしても、道端で適当にやってもちゃんと変速が決まるように調整できる気がしない。外装3速化は自分でやったので方法は分かるのだが、おそらく1時間以上はかかるだろう。道中の自転車屋に持ち込むにしてもブロンプトンに詳しい可能性は低いし、最優先で数10分でやってくれる見込みは低い。修理は後輪を外して行うことになるが、そのためには空気を抜かねばならないし、下手に試みると走行不能になる。

そんなことを考えながらも、とりあえず集団には追従して走り続けていた。車体の状況の確認も、赤信号で停車した際にささっと済ませる具合だ。直感的に、完全に止まってしまうとモラルハザードに陥ると思ったのだ。昼間なのにSAN値ピンチで、DNFも頭をよぎった。しかし、まだ走れているじゃないか。リアの変速ができないだけじゃないか。幸いにしてロー固定じゃなくてトップ固定なので、最もよく使うアウター×トップは生きているじゃないか。それで登れない坂は、インナー×トップで、適宜ダンシングすればいいじゃないか。これも幸いにしてインナーチェーンリングはSugino Cycloid SHC 32Tという登坂性能最強のギアなので、たとえリアがトップでも大抵の坂は行けるはずだ。この先は困難が多いかもしれないが、諦めたらそこで試合終了だ。走れるのにDNFしたとあっては、自分に言い訳するのが辛い。だったらタイムアップまでは走る方がマシだ。

150km地点であるPC2の奥野ダム管理事務所に着いた。13時50分到着予定が、13時36分到着なので、14分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は19.7km/h。134号や1号を快走できたとはいえ、伊豆の峠を含んでいたのにこの速度なのは明らかにオーバーペースだ。メカトラに焦って踏みすぎたのかもしれない。先に着いていた他の参加者と話したところ、心配してくれてワイヤーの替えをあげようかとも言っていただいたが、残念ながら工具と時間が足りない。なんとかこのまま走りますと言うしかなかった。

PC3まで

伊豆の登りはここからである。獲得標高も勾配も本格的な峠とは言えない穏やかなものだが、リアがトップ固定な身には優しくはない。もう180W・5秒縛りとか平均168W縛りとか言っている場合じゃないので、ケイデンスが落ちすぎない範囲で踏むしかない。結果として200W超えで長時間踏み続けることにはなったが、仕方ない。とにかく止まらないことが大事だ。根気よく踏んでいたら、なんとか冷川トンネルを越えられた。

そこから下って修善寺を抜けたあたりで、先行していた参加者二人に追いついて、そこから沼津あたりまで一緒に走った。ギアの話をしたらここでも心配して励ましてもらったが、私はこの時点では完走は危ういと思っていて、弱音を吐いていた。

富士市に入った頃にはまたソロになっていたが、平坦になったこともあり、気持ちの切り替えができていた。やたら自転車禁止のオーバーパスが多い国道1号ではなく、県道380号(富士清水線)という走りやすい道だったのも良かった。DHバーを握って回復走のつもりで低めの負荷で走った。

230km地点であるPC3のローソン清水宮加三店に着いた。18時46分到着予定が、18時2分到着なので、44分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は19.1km/h。伊豆での無理とその後の回復走のおかげで、明らかにペースが落ちてきているが、それでもまだ余裕がある。

PC4まで

日が落ちてきてもソロでまったり走り続けていたが、とにかく平坦なので走りやすかった。清水バイパスとその前後で何人か抜いた。

静岡市と焼津市の間は浜当目トンネルを通ると1時間かからずいけるはずなのだが、大崩海岸が2024年に崩落して浜当目トンネルが通行止めになっているのでそれは不可能だ。近くにある新日本坂トンネルは自転車進入禁止なので、さらに北の宇津ノ谷隧道群に迂回する必要がある。ここが若干の登坂になるわけだが、アウターのまま登れる範囲で、大したことはない。

焼津、牧之原、御前崎あたりはひたすら暗闇の中を走ることを想定していたが、意外に明るい町並みの中を走る区間が多かったので、正気を保ちやすかった。狂人は自分が狂っていると気づかないわけで、私の正気を私が確かめることはできないが、ともかく捨鉢にならずに走りづづけることはできていたらしい。この区間では他の参加者との邂逅は全く無かった。

300km地点であるPC4の御前崎の静岡県最南端の碑に着いた。22時42分到着予定が、21時46分到着なので、56分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は19.0km/h。夜はペースが落ちるはずだが、それでも夕方と大して変わっていないのは、吹っ切れたからだろう。

PC5まで

御前崎近辺の海岸線は潮風が強かった。潮の香りがするという程度ではなく、塩水そのものが霧のようにまとわりついてきて、サイコンやサングラスや車体がベタベタになるのだ。帰ったら即刻で洗車しないと錆びるなと思いながら、暗闇の中を走った。

310km地点であるPC5のファミリーマート御前崎佐倉店に着いた。23時14分到着予定が、22時29分到着なので、45分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は18.8km/h。ここでホットコーヒーを飲みながらしっかり休憩したところ、疲労感が和らいで、残りもしっかり走ろうという気になった。後続の参加者が来て挨拶だけしたが、そんなやり取りでも嬉しいものだ。

宿泊地まで

往復コースなので、行き帰りの参加者がすれ違って手を降るようなシーンを想像していたのだが、誰ともすれ違わなかった。御前崎付近の30kmくらいの区間だけ輪っかになっているわけだが、その区間にほとんどの参加者が集中していたことになる。それでも一人としか邂逅しなかったのだから、ほとんどの参加者が似たようなペースで走っていたということになる。

宇津ノ谷峠で道間違えをして無駄に藤枝静岡線を登るという失態をしたが、不思議と悔しい気持ちも起こらず、淡々と元のコースに引き返してまた走り出せた。無駄な感情を掻き立てても疲れるだけだと冷静に自分を見つめていた。とにかく淡々とペダリングしてパワーを節約しつつ、宿に入って回復に努めようと考えていた。

370km地点である宿泊地の快活クラブ静岡寿町店に着いた。翌2時33分到着予定が、翌1時49分到着なので、44分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は18.7km/h。真夜中の走行でもペースが維持できたのは、涼しくなって走りやすかったからと、無我の境地に達していたからだろうか。

予定通りに充電やらシャワーやらの行動をこなして、途中のコンビニで調達したプリンやらを食った。着替えはしないつもりだったが、汗と海の塩であまりにベタベタだったので、全ての衣服をシャワーのついでに洗った。数時間で乾く見込みは薄かったが、それでもそうするしかないと思った。おかげでトランクス一丁で毛布をかけて寝ることになったが、疲れていたのでそれでも眠れた。

PC6まで

予定通りに7時に起床した。朝の身体の調子を見て続行かDNFかを決めると考えていたが、思いのほか、頭も身体もすっきりと回復していたので、続行を決定した。そして、予定通りに身支度をして、さくっと出発した。

朝の太陽に照らされて輝く海を見ながら清水バイパスを走るのは気持ちが良かった。リアがトップギアしか使えない2日目は平地で稼ぐしかないので、ブロンプトン乗車時のモットーである「I'm walking」を替えて、「I'm a human torpedo cutting through the wind」ということにした。DHバーを握って軽く踏み込むだけでグイグイと進んだ。

378km地点である宿泊地のセブンイレブン清水駒越西店に着いた。翌8時1分到着予定が、翌7時46分到着なので、-15分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は14.7km/h。仮眠を経たので、一転して借金生活に突入したわけだが、これから返せばいいので心配は不要だ。

PC7まで

各々の宿に散っていった参加者が同じコースに続々と集まって来る様は、まさに「導かれし者たち(キューシートに)」って感じで感慨深かった。途中でグループに追従したり、それを抜いたり、他の参加者を何人か抜いたりもした。思ったよりも脚がよく動いたので、150Wから160Wの間で快調に踏めていた。1日目は見えなかった富士山がよく見えた。

懸念していた伊豆の登りだが、予想通り、辛かった。修善寺まではアウターでこなせたが、その先はインナーに切り替えて進んだ。ただし、ずっと登りなわけじゃなくて、登ったり平坦だったりが頻繁に切り替わるのでケイデンスの変動が激しくて苦労した。さらに、冷川トンネル手前の勾配は明らかに帰路の方が強烈になっていて、ダンシングを多用せざるを得なかった。ダンシングはペダリング効率を下げて心拍数を上げる行為なので、できるだけやりたくないわけだが、背に腹は変えられない。それでも地道に漕いで冷川トンネルまでたどり着いた。トンネルの中が涼しくて気持ちよかった。

470km地点であるPC7のセブンイレブン伊東中伊豆入口店に着いた。翌13時4分到着予定が、翌12時16分到着なので、48分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は15.5km/h。懸念していた登坂をこなした上で借金を返し終わっているので、この時点で完走がほぼ確実となった。

PC8まで

完走がほぼ確実と言っても、伊豆の峠はまだ数多く残っていた。登りと下りと平坦を繰り返すのでフロントをインナー固定にするわけにもいかず、足変速で何とか頑張った。アウターからインナーに落とすのは簡単なのだが、インナーからアウターに上げるのがすげー大変なのだ。

往路で通った真鶴やら大磯やら湘南の風景を堪能しながらまったりと走った。どの風景もなぜだか懐かしい。

560km地点であるPC8のファミリーマート逗子渚橋店に着いた。翌18時8分到着予定が、翌17時13分到着なので、55分の余裕だ。この時点でのグロス平均速度は15.9km/h。もう頑張る必要はない。

ゴールまで

もう坂はないと思っていたが、逗子の坂やら鶴見の坂やら細かいのがまだまだ残っていることを思い出した。とはいえ、伊豆に比べれば大したことはない。全部アウターとダンシングで乗り切った。みなとみらいに着いたら、おかえりと言われているような気すらした。

磯子あたりで、往路に沼津で邂逅した参加者に再開した。心配していただいていたので、生存を報告できたことがちょっと嬉しい。彼もメカトラでギアが変えられなくなっていたそうで、なんだか意気投合した。日没前にゴールしたかったが、無理なので、そのまままったりと走った。

ゴールのミニストップ新川崎店に着いた。翌20時25分到着予定が、翌19時24分到着なので、61分の余裕だ。真の締め切りまでは3時間36分の余裕ということになる。この時点でのグロス平均速度は16.1km/h。感動のゴールではあるが、無人ゴールなのがちょっと寂しい感はある。多コース同時開催するには必然的にそうなるだろうし、それで運営が回っているのは驚異的だし、感謝しかないけれども。ゴールで再会した先述のSHOさんとしばらくブルベ談義をして、互いの検討を称えた。なんか人間に戻れた気がした。

ゴール後速やかに完走申請をして各PCのレシートやフォトチェックの写真を送るのを忘れてはいけない。後日発表されたリザルトシートによると、37時間24分でそのまま認定されて、3番時計ということだった。不思議なのは、PC7で明らかに私より早く出発していた人々が、その後に邂逅していないのに、なぜか私より遅く到着していることだ。時間に余裕があれば急ぐ必要はないので途中で飯でも食っていたのだろうが、ギリギリの時間で落ち着いて飯食えるものなんだろうか。

ハイパーラプス動画

往路のハイパーラプス動画を作ってみた。300kmの全行程を45分間で振り返ることができる。さらに倍速再生すると23分ほどでブルベの追体験ができる。4K60fpsなのでかなり綺麗に撮れている。電子手ブレ補正もよく効いているし、Insta360 Ace Pro 2はかなり優秀。夜間の画質は壊滅的だけども。

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見返してみると、「そうそう、こんなだったなぁ」と思うシーンも多い一方、「あれ、こんな道通ったっけ?」となるシーンもちらほらある。人の記憶とは当てにならないものなので、外部記憶としての記録の価値は大きい。それにしても、すげー距離を走っていることが再確認できる。復路はほぼ同じコースなので割愛する。

データ分析と振り返り

1日目は、走行時間16時間26分で、ネット平均時速22.9km/hだった。平均心拍数=114bpm、平均ケイデンス=62rpm、AP=118W、NP=132W、VI=1.12、IF=0.59、TSS=574、消費カロリー=8257kcalだ。パワーゾーン分布は、Z1で7時間15分、Z2が6時間32分、Z3が1時間46分、Z4以上は48分だ。折れ線グラフを見ると、序盤から終盤まで安定してパワーを出せていたことが分かる。

2日目は、走行時間10時間17分で、ネット平均時速23.7km/hだった。平均心拍数=107bpm、平均ケイデンス=63rpm、AP=109W、NP=128W、VI=1.19、IF=0.57、TSS=338、消費カロリー=4814kcalだ。パワーゾーン分布は、Z1で5時間37分、Z2が3時間26分、Z3が45分、Z4以上は28分だ。折れ線グラフを見ると、伊豆の周辺で高出力になった他は、1日目よりさらに安定してパワーを維持できていた。

総じて、1日目はメカトラにもめげずに、いのちだいじに作戦を遂行できていたと言えよう。APもNPも事前の計画よりは高まったが、VIは計画通りだった。Z3の割合が高まったのはギアがないせいなので仕方がない。一方で、2日目は、風を切り裂いて気持ちよく走っていた割には、脱力して良い走りができていた。VIが高まっているのは、平地巡航でのパワーを抑えられた結果と言えよう。宿泊地を370km付近にして1日目の距離を長くしたのは正解だった。そのせいで1日目のTSSやカロリーが2日目よりもだいぶ重いことになっているわけだが、正気を保てているうちに距離を稼いでおけば、たとえ2日目に多少無茶をしても余裕をもって完走できる。その心の余裕を持った状態で2日目を迎えたことが、2日目の効率的な走りに繋がったのかもしれない。

ネット平均速度で見ると、1日目が22.9km/hで、2日目が23.7km/hということで、結局のところ、ロードバイクと遜色ない走りができていたことになる。2日目の方がパワーあたりの速度が速いのは、おそらく追い風だったからだろう。ともかく、これで実証できたのは、平地かつ良路面のコースにおいて、DHバー付きのブロンプトンはそんなに遅くないということだ。登坂や悪路では確かにロードバイクに遅れを取るが、ブルベを完走するのに致命的というわけではない。リアディレイラーが壊れたのは私の整備の問題だ。DHバーを付けずに本当に1割遅くなったとしても、完走には問題なかっただろう。

楕円チェーンリングの優秀さも実証できたと思う。リアがトップ固定だと、アウターのロールアウト6.33mとインナーのロールアウト3.90mだけで走らなければならない。平地巡航で速度が乗ってケイデンスが高まりすぎた時にも、登坂で減速してケイデンスが低まり過ぎた時にも、楕円の効果で対応できる。ケイデンスが高い状態でもパワーゾーンで重くなるのでしっかりトルクをかけられるし、ケイデンスが低い状態でもデッドゾーンで軽くなるので膝の靭帯や軟骨を痛めないで済む。実際、完走後も、大臀筋はしっかり筋肉痛になったし、膝の痛みは皆無だった。

仮眠後の朝の体調がすこぶる良かったのが意外なほどだった。両脚が「我ら意気軒昂。必ずや殿を江戸までお連れ申す!」と語りかけてくるようであった。これは、高めてきたCTLのおかげと、睡眠プロトコルの最適化のおかげだろう。ここまでうまく回復できるなら、3日以上にわたる1000km越えのブルベも問題なく走れる気がする。尻やら首やらの痛みも仮眠後には皆無になっていたし、2日目の終盤でも身体に不調な部分がどこにも無かった。

今回は晴れだと分かっていたので、チェーンオイルはクレのチェーンルブドライを出発前に塗布していた。トップチューブがないブロンプトンでは停車時に車体を傾ける癖がつくので、右脚とチェーンが接してしまう。その際にウェットルブだとめちゃくちゃ汚くなるのだ。ただし、ドライルブはウェットルブよりも持続距離が短いとされる。よって、目薬ボトルに入れておいた替えオイルを300km地点で差すのを計画していたが、すっかり忘れたまま600km走りきってしまった。それでも気づかず、抵抗が増えたり異音がしたりなどの不調も感じなかった。多くの区間が低負荷であり、変速操作が頻繁ではなく、水濡れが全くない状況ならば、クレのチェーンルブドライは600km持つらしい。最も多く使用したアウター×トップのチェーンラインがほぼ真っすぐなのも貢献しているかも。とはいえ、敢えてリスクを増やす意味はないので、替えオイルは携帯すべきだろう。たとえオイル切れしなかったとしても、オイル切れを心配して走るのが精神衛生上良くない。

ブルベ本番は確かに肉体を健康にはしてくれない。オーバーワークも甚だしい。一方で、精神的には確実に成長する。私は根性論を毛嫌いする者だが、最終的には精神力が物を言うのは否定しがたい。というのも、逆境で正常な判断力を維持する能力こそが精神力だからだ。もともと正しい判断をするための理性や知識がなければ話にならないし、その論拠となる体力も不可欠だが、計画立案から執行まで全体を統括するのは精神力に他ならない。最後は根性。大人になってそこまで追い詰められることは少ない。社会的にそんなリスクは取れないからだ。ブルベなら、失敗してもせいぜいDNF連絡をして失意のうちに帰宅するというだけで、大人の根性試しとして良い機会とも言えるのではないか。

補給について

東京以外のBRM530も含めて参加者の記録を見ていると、補給戦略が間違っていることでDNFに至る人が散見される。それ自体が狂気の沙汰であるブルベに正しいも間違いもないし、他者の戦略に口を出すべきでもないのだが、私なりに正しいと思っていることを書いておきたい。

まず、基本戦略としては、胃を満杯にしないというのがある。胃が満杯になると、胃もたれ・胸焼け・吐き気を催し、倦怠感や頭痛なども併発して、DNFを余儀なくされる。なので、飲みすぎ食べすぎは駄目だ。逆に、ちびちび飲んで、ちびちび食うというのが最適ということになる。よって、小分けにできない補給はすべきじゃない。朝食や昼食や夕食と称して、日常生活の一人前を一度に平らげてはならない。

さらに、走行中には骨格筋に血を取られるので、胃腸の活動が鈍るということも理解すべきだ。つまり、飲み食いしたものが胃に滞留する時間が長い。そして、胃壁は半透膜であり(実際には単なる膜ではないが、そうモデル化できる)、内容物の浸透圧の影響を受ける。胃に滞留している時間が長いほど、その影響は顕著になる。高張液(体液よりも溶質の濃度が濃い液体)が胃に存在すると、胃が体液から水を取り込んで薄めようとする。喉が渇いて水を飲んだ時に、胃の中にまだ食べ物が残っていると、それと混ざって浸透圧が上がり、それが高張液になると、水を吸収できなくなる。そうなると、水を飲んでも水分が吸収されずに、胃が単に膨張するだけになる。それでも喉は渇くので水を飲み続けてしまうと、胃が満杯になってDNFとなる。体調を回復させようと悪あがきして糖分を取ると、浸透圧がさらに上がって状況が悪化する。つまり、水を飲む際には等張液か低張液になる程度に胃の容量を空けておかないと駄目だ。そして、胃に内容物があると浸透圧が上がることを鑑みると、高張液である果汁やエナジードリンクは当然不適なわけだが、等張液であるスポーツドリンクも不適になることがある。ちびちび食べ続けていることを前提とすると、飲み物は水か、それに近い低張液が良い。

また、血糖値の上がりやすさであるGI(Glycemic Index)も考えるべきだ。基本的に超長距離走行中に麺類やパンや甘味類などの高GI食品は控えるべきだ。血糖値が急激に上がるとインシュリンが急激に出る。インシュリンは脂質代謝を阻害して糖質代謝に移行させる。脂質代謝の場合は半分以上のエネルギーが体脂肪から捻出されるのに対し、糖質代謝に切り替わると糖質だけでエネルギーを賄うことになる。また、インシュリンが多いと血糖値が急激に下る。血糖値が下がると空腹になり、さらに食べてしまう。食べてしまうと胃が満杯に近づき、DNFも近づく。よって、固形物の補給に関しては、低GI食品を選ぶべきだ。PC毎に、あるいは50km毎に、オニギリ1つを食うくらいが良いだろう。冷や飯はレジスタントスターチの割合が高いので消化が遅くなり、血糖値が上がりにくい。オニギリは存在が小分けなので管理もしやすい。ソイジョイとかでもいい。

ここに書くのは3度目だが、私は、パラチノース30gとEAA10gと塩1gとクエン酸1gとを水700mlに混ぜた特製ドリンクをちびちびと飲むようにしている。吸収が著しく遅いパラチノースが血糖値を維持し、EAAが血中アミノ酸濃度を維持して筋肉の分解を防ぎ、塩が汗で失った電解質を補う。クエン酸は味の調整のためだ。オニギリもPC毎に食うが、空腹感がない時は省略する。そのドリンクレシビだとかなり等張液に近い弱低張液になるので、胃にオニギリが存在している場合には濃すぎることになる。そこで、PCでは1Lの水を買って、オニギリを食いながら300ml飲む。残り700mlでドリンクを作っておき、それは走行中に胃が落ち着いたころに飲み始める。暑い日に発汗が多い場合は、水1.5Lを買って、同じ事をする。飲みきれなかった水は、勿体ないけど、捨てる。

走行中に胃がチャポチャポしたり、ゲップが出たりするのは、危険信号だ。その際には、何も摂取しないのが良い。回復しようとして何か飲み食いすると、大抵状況が悪化する。その際の最善策は、停車して休むか、著しくパワーを落として、心拍数を下げ、胃腸に血液を回すことだ。DNFになるよりは、ペースを落とした方がマシだろう。

美味しい食べ物がないなんてブルベの楽しみが半減じゃないかと思うかもしれない。しかし、ご褒美の高GI食品はゴール後または仮眠前まで取っておくというのも手なのではないか。それを考えながら走るのが終盤のモチベになる。私は終盤は松屋のことばかり考えていた。こんもりと紅生姜を盛って、むせるほど七味をかけて、サラダにゴマドレッシングを思いっきり濃い目にかけてやろうと。とはいえ、強い胃腸と代謝能力がある人にはこんな助言は不要だ。好きな物を食って走りきれるならそれでいい。そうでない人で、胃腸の不調でDNFになって悔しい思いをしたならば、胃を休めて低浸透圧と低GIとを徹底する戦略を検討してみるべきだろう。

ブロンプトンについて

歩いているつもりで脱力して乗ると、思ったより速く走れて気持ちよくなるのがブロンプトンだ、という話を何度かしてきた。それでブルベも完走できて、平地の良路であればロードバイクに対抗できることも示せた。しかし、DHバーの追加をはじめとして、ハンドルもペダルもシートポストもホイールもBBもチェーンリングもスプロケットもディレイラーテンショナーもホイールも換装するカスタマイズを施しているので、デフォルトのブロンプトンで同じ性能が出ると主張する気はない。とはいえ、ほぼデフォルト状態のブロンプトンで1000kmブルベを完走している人々もいるようなので、ブロンプトンでブルベを走ることが現実的な範囲であることは間違いない。まったり歩いているつもりで200kmとか600kmとか1000kmとか移動してしまうというのは素敵なことだ。

ロングライドの速度域でブロンプトンが意外に楽に走れるのはなぜか、ということをブルベの道中で考えた挙句、生体的エネルギー効率が高いのかもしれないという仮説を持つようになった。つまり、消費カロリーあたりの仕事量として測れる、一般的に20%から25%と言われるGE(gross efficiency:総効率)が高いと思っている。アップライト気味の乗車姿勢は、パワーあたりの速度であるCE(cycling economy)を低くしてしまう一方、楽な姿勢で座って楽に呼吸をして脱力してペダリングできることは、GEを上げるのではないか。低速域では空気抵抗の影響が少ないので、CEの低下は少なくなり、それでGEが高いならば、総合的には楽に長く走れることになる。大トルクを出さないなら前傾姿勢でペダル荷重を高める必要もない。逆に言えば、スポーツバイクはCEを追求するあまりGEを犠牲にしているところがある。シティバイクはそれへのアンチテーゼとしての価値がある。その極北であるブロンプトンもGEの観点で見直すべきと思う。GEの測定は当然ながらパワーメーターだけでは不可能で、実験室で酸素消費量や二酸化炭素排出量を測る必要があるので、この仮説を検証することは素人には難しい。なお、GEがちょっと高いとしても、低いCEを補償するほどであるとは主張していない。GEとCEを総合してブロンプトンの方が遅いというのは明白な事実だ。CEが低い割には意外に楽に走れるという話をしている。

ブロンプトンは折り畳みが楽なので、輪行や宿泊の際に便利であり、旅向きの自転車だと考えることもできる。乗車時のメンタルモデルがロードバイクとは根本的に違っていて、速く走らなくても良いというか、まったり走って気軽にいろんな場所に寄り道するべきという気分にさせてくれる。荷物の積載能力も一般的なロードバイクよりは高い。走行性能の限界から1日の移動距離が短くなるというのは欠点だが、ブルベで育てた体力と技術でそれを補えば、旅の友としてのブロンプトンの価値はより高まる。今回のブルベを経て、またブロンプトンで各地を巡ってみたいという情熱が湧いてきた。

今後について

BRMのラスボスも裏ボスも倒してしまったわけで、ブルベで個人的にやりたかったことは全部叶えてしまった。このプロジェクトを通して、自転車にまつわる工学や物理学や生理学を網羅的かつ第一原理として学ぶことができ、サイクリストもしくは人間として成長できたと思う。しかし、ロングライドやブルベの世界はまだまだ広く深い。1000kmやら山岳ブルベやらのさらに難易度の高い世界もある。しかし、これ以上難易度を上げていくと、健康的とは言い難いから悩ましい。Faster, Higher, Stronger的な世界はキリがなく、それを追求するとエンジョイ勢じゃなくガチ勢になってしまう。今のところ、ブルベは一段落させて、1日100kmくらいをのんびり走る自転車旅をしてみようかなと思っている。厳しめの挑戦で得た体力・知力・精神力を、楽にする余裕として使うのだ。寝袋だけの野営ツーリングは若い頃にちょくちょくやっていたが、テント携帯のツーリングはしたことがないので、そっち方向にも興味がある。ビワイチ、アワイチ、サドイチ、フジイチあたりを未だに達成していないので、それらをコンプしてみるのも一興かと。