キャノンボール再戦の準備とGP5000 AS TR

大阪東京キャノンボールに再挑戦にあたって、タイヤをGP5000 AS TRに替えた。良路面を想定した計算上では20分遅くなるが、悪路を想定すると差は縮まると想定され、耐パンク性と乗り心地が向上したことで達成率は向上すると期待される。また、ルート選定をし、その他の準備も行った。


前回の敗北

大阪東京キャノンボールに東向き伊賀越え・御殿場越えルートで挑んだが、DNFとなった。412km地点の御殿場に向かう国道246号上で2度目のパンクをして、走行不能になったのだ。それまではネット平均速度25.39km/hおよびグロス平均速度は22.30km/hで走れていたので、正直惜しかったと思う。と同時に、600kmブルベより圧倒的に難易度が高いことを実感した。そこで、前回の問題点をきちんと改善してから再挑戦する。

タイヤの選定

耐パンク性能が高いとは言えないレース用タイヤであるAgilest Fast TLRを、しかも摩耗した状態で使っていたのが直接の敗因である。ブロンプトンでのブルベではマラソンレーサーを使ったのに、なぜキャノンボールで同様に安定性重視の判断ができなかったのか。それは、追加投資のコストを躊躇して、リスクの計算を怠っていたからだ。その構成でSRを取れたのだから、次もうまくいくだろうという正常性バイアスに嵌ったとも言える。それではいけない。猛省し、耐パンク性能が高いと言われるGP5000 AS TRをほぼ新品状態で投入することで問題の解決を測る。

ホイールはYOELEO SAT C35 DB PRO NxT SL2をそのまま使う。内幅23mm、外幅32mmだ。Agilest Fast TLRでは30Cだったが、今回のタイヤは32Cにする。ホイール外幅とタイヤの実測幅がともに32mmのツライチになるのは30Cで、空力の点ではその方が良い。ただし、乗り心地では32Cの方が有利と言われる。空力に関しては、ブルベやキャノンボールの速度域である30km/h前後では、恩恵は微々たるものだ。路面抵抗に関しては、もし路面が良い道ばかりを走るならば、30Cを比較的高圧で運用してヒステリシスロスを低くしつつ、凸凹によるインピーダンスロスを気にせずに済む。しかし、日常生活で田舎道を多く走り、キャノンボールやブルベでも田舎道を走る割合が多く、かつ幹線道路でも路肩の走行が多い。また、キャノンボールでは田舎道を走ることが多く、バイパス避けの脇道も多く、幹線道路を走る時も路肩を走り、それらはだいたい路面が悪い。よって、悪路を基準に考えるべきだ。その場合、32Cを比較的低圧で運用した方が、ヒステリシスロスを同等にしつつも、インピーダンスロスを小さくできて有利だ。ヒルクライム主体ではないならば、重さの増加は許容できる。

前輪を30C、後輪を32Cの異幅(かつ結果的に異径)構成にする手も考えた。前輪の方が空力上は重要で、かつ後輪の方が荷重も摩擦も多くかかるので、30Cと32Cの良い所取りになる。前後ローテーションができなくなるが、シーラントありのチューブレス運用で前後ローテーションなんて面倒なことをするなら後輪だけ先に交換するべきだ。パンク対策のTPUチューブは1本で30Cにも32Cにも使える。しかし、残念ながらGP5000 AS TRは30Cがない。28Cと32Cの組み合わせだとさすがに太さが違いすぎて均整が取れない。よって、前後とも32Cにした。

クリンチャーにしてTPUチューブで運用することも考えたが、小キズをシーラントが自動修復してくれるチューブレス運用の方が、停車時間を最小化したいキャノンボールでは望ましい。日常生活で低圧運用してもリム打ちパンクの心配がないのもチューブレス運用の美点だ。パンクの修理で汁まみれになる屈辱はチューブレス運用ならではで、ビードを落とすのにもコツと握力が必要なのは明確な欠点だ。しかし、慣れれば修理作業時間はクリンチャーに比べての増分は10分程度だろう。パンクする確率が圧倒的に低くなることを鑑みると、修理作業時間の期待値はチューブレス運用の方が明確に低く、おそらく25%以下にはなるだろう。チューブレス運用では、単に空気を入れ直しても直らない場合には予備のTPUチューブを入れて対処する。それはタイヤのケーシングが損傷するほどのパンクなので、TPUチューブでもパンクしていたはずだ。その対処をした後の耐パンク性能はTPUチューブ運用と同じになる。ケーシングが広く損傷している状態でチューブを入れて長時間走るとまたパンクするということは前回の敗北で示した通りなので、交換タイヤを持っていない状態でケーシングが広く損傷するようなパンクをしたなら、チューブレス運用だろうがチューブ運用だろうが、どっちみち先行きは危うい。ならば、総合的に停止時間期待値が低いチューブレス運用の方が有利だ。そして、GP5000 AS TRは、異物貫通やサイドカットという突発的なケーシング損傷には強い構造になっている。摩耗さえ気を付けておけば、走行中にパンクする確率は低まると期待できる。

Agilest Fast TLR 30Cが259gで、GP5000 AS TR 32Cは385gなので、1本で90g重くなっている。シーラントの増量分が1本10gとすると、1本で100g重くなる。それが前後輪2本なので200gも重くなる。重量増加が引き起こす顕著な欠点は、加速性能の悪化と登坂抵抗の増加だ。加速では、車輪最外周の質量は加速時の慣性力が2倍かかる。しかし、150Wで加速して停止状態から巡航速度30km/h(=8.33m/s)に達するまでの速度差による時間的遅延は意外に小さい。加速に必要な仕事量は0.4kg*(8.33m/s)2/2=13.9Jだけ増える。それを150Wで処理すると0.093秒だ。加速遅延による走行時間の延長はその1/3であり、0.031秒だ。キャノンボール全体では、多めに見積もって400回くらい赤信号などで止まるとして、毎回の0.031秒の遅延を追加したとすると、合計12.4秒だ。登坂では、200gの質量が登坂抵抗につながる。キャノンボール全体では獲得標高3500mくらいの分だけ持ち上げるので、0.2*9.8*3500=6860Jの仕事量が増える。それを150Wで処理するなら、45.7秒の遅延になる。つまり、漕ぎ出しと登坂の遅延は全体で60秒未満にすぎない。1秒を争うレースをしないなら、機材の軽量化に神経を尖らせたり金をつぎ込んだりする必要はない。

タイヤの性能を考えるには、重量よりも路面抵抗が重要だ。bicyclerollingresistance.comによると、Agilest Fast TLRの28Cの路面抵抗は10.1Wで、GP5000 AS TR 28Cの路面抵抗は12.2Wだ。Agilest Fast TLRの30CやGP5000 AS TRの32Cの結果は公開されていないが、太さ幅に最適な空気圧で運用し、かつキャノンボールでの実際の路面での走行を考えた場合、同一銘柄ではタイヤの沈み込み量(ケーシング張力)を合わせた適正空気圧まで下げれば転がり抵抗は28Cの高圧時と同等になると考えられる。よって、ここでは、Agilest Fast 30Cの路面抵抗は10.1Wで、GP5000 AS TR 32Cの路面抵抗は12.2Wとみなす。その差は2.1Wで、前後輪を合わせると4.2Wとなる。ケーシングが厚くなればそれが変形した際の摩擦熱が増えてヒステリシスロスが増えるというのは物理的必然だ。なお、同じ銘柄で細いタイヤと太いタイヤで最適空気圧同士ならヒステリシスロスが変らず、太い方がインピーダンスロスが低いのであれば、太ければ太いほど良いということになってしまうが、実際はそうではない。空力と重量がトレードオフになるので、速度や加速度や勾配や路面の傾向によって最適な太さが決まる。私が走るキャノンボールの状況では32Cが良いと私が判断しているだけだ。

キャノンボールのネット平均時速は25km/h程度とすると、路面抵抗の差は4.2*(25/29)で、3.6W程度になる。Agilest Fast 30Cで25km/hで巡航できる92Wのパワーでは、GP5000 AS TR 32Cだと24.6km/hしか出ない。前者は520kmを20.8時間で走れるのに、後者は21.1時間かかる。つまり約0.3時間(約19分)の貯金を食いつぶされるということだ。重量増加による遅延を足すと20分になる。ハイエンドのタイヤ同士でもここまで差が出るわけで、タイヤの性能がいかに重要かが分かる。20分は無視できない差なので、Agilest Fast 30Cまたは32Cの新品を買うというのも一案だ。しかし、今回はGP5000 AS TR 32Cを採用した。パンク1回分の損失期待時間は20分よりも大きく、また損失時間以上に精神的および肉体的な損害が大きく、それを懸念する精神的負荷も大きいからだ。なお、GP5000 S TR 28Cの路面抵抗は9.7Wだそうなので、520kmを20.74時間でAgilest Fastよりも4分、ASよりも23分短縮できることになる。しかし、キャノンボール以外での運用も考えると、速度を最大化するよりは予定が立てやすいことが大事なのと、寿命が長い方が財布に優しいという理由で、ASの方を選ぶ。

余談だが、ここまでの重さと抵抗の計算は、なぜハブダイナモを使うべきではないかを理解するのにも役立つ。モバイルバッテリーは20000mAhのものでも300gから400g程度で、ハブダイナモによる重量増加は350gから450gくらいだ。つまり大容量モバイルバッテリーは50g重いのだが、上述の計算通り、重さによる時間遅延は秒単位だ。一方で、ハブダイナモによる抵抗は高性能なものでも10Wくらいはあり、その抵抗による時間遅延は分単位になる。キャノンボールやブルベでも20000mAhもあればモバイルバッテリーだけで大抵の機器の電力供給は間に合うので、2026年時点でハブダイナモを使う理由はほぼ無いと言えるだろう。

タイヤ調達と設置と簡易レビュー

てことで、Amazonで12680円のタイヤを2個買った。オークションサイトで未使用中古品なども探したが、普通にAmazonで新品を買うのがマシという結論になった。タイヤにそんなに金かけるなんて今までにないことだが、タイヤへの投資が最もコスパが高いことも理解している。

Agilest Fastは中古で買った車体についてきたものであり、私はチューブレスレディのタイヤを自分で設置した経験がない。ビード上げに必要な昇圧タンクとシーラント液(MacoffのNo Puncture Hassleのロード用)を買っておいた。バルブは以前のをそのまま流用する。ホイールを洗浄してから、バルブと新しいタイヤを嵌める。海外のレビュー動画で、GP5000 AS TRはビードが硬すぎて嵌められないと切れていた人がいたが、確かに硬いけれども、タイヤレバーを使わずに素手で付けられた。ビードが嵌った部分を揉みながら嵌っていない部分に向かって寄せていくのを根気よく繰り返すのがコツだ。その後、昇圧タンクで一気に空気を送ってビードを上げる。普通のフロアポンプでのビード上げは不可能だった。それから空気を抜いて、バルブコアを外して、シーラント液を70ml入れて、バルブコアを締める。一般的に32Cのシーラント液の適正量の上限は60mlと言われているが、耐パンク性能を重視したのと、前述したように10g程度の重量増加による遅延は無視できるのと、走行距離も走行頻度も多い私の使い方だと揮発が早いので、10ml多めにした。空気圧を推奨上限の72psiまで入れて、ホイールをゆっくり回しつつ、シーラントを行き渡らせる。タイヤを立てて回すだけだとサイドウォールやビードの隙間に行き渡らないので、水平にして回したり、軽く床で跳ねさせて撹拌したりもする。それを前輪と後輪でやれば完成だ。やってみると意外に簡単だった。運用初期の空気漏れが防げれば、あとは走っているうちにシーラントの定着が進む。本番の直前に設置すると不安定な状態で運用することになるので、1週間くらい前には設置して、100kmくらいは乗っておくのが無難だろう。

実際につけてみるとこんな感じだ。タンウォールやらクリームウォールが流行っているけども、私は黒が好きだ。地味な色の車体に地味な色のタイヤをつけて、風景に溶け込みたい。Agilest Fast同様に、タイヤについているロゴが白抜きじゃなくてグレー調で目立たなくなっているのが素晴らしい。無印AgilestやAgilest Duroのロゴは目立ってイマイチだった。

Agilest Fast 30Cの実測幅は31.7mmだったが、GP5000 AS TR 32Cの実測幅は33.0mmとなった。サイドウォールが頑丈なおかげか、タイヤの横方向への膨らみが抑えられた結果として実測幅が小さくなっている。ホイール外幅の32mmと比べると確かにほんのり膨らんではいるが、気になるほどではなく、ほぼツライチと言ってもいいくらいだ。タイヤのサイドウォールがホイールより若干外側の方が、柵などにに立てかけた際にホイールが直接触れることがなくなって安心だ。フレームとの間のクリアランスについてもまだ8mmくらいあるので全く問題ない。

適正空気圧はSRAMのサイトで計算して、前輪56.9psi(3.92bar)、後輪60.5psi(4.17bar)ということになので、空気抜けを考えて、前輪58psiおよび後輪62psiを入れる。3日に1回入れ直すくらいの運用だと、平均で前輪52psi、後輪56psiといったところだろうか。タイヤ外周は測っていないが、Cat Eyeのタイヤ周長ガイドによると、30Cは2.146mで32Cは2.155mmとのことだ。サイコンのセンサーの設定はそれに応じて直した。ロールアウトが0.4%増えたわけで、ほんの若干だがギアが重く感じることになる。タイヤを太くすると重いとか遅いと言っている人の多くは、空気圧が適正ではないか、ロールアウトの違いを感じ取っているのではないか。

適正空気圧は乗車重量や路面によって異なるので、何が最適なのかは実際のコースを自分で走ってみないと分からない。経験則としては、「跳ねを頻繁に感じたら高すぎる」「跳ねを全く感じないなら低すぎる」ということになる。乗車重量80kgで走行していて段差を踏んで全体の重心が2mm跳ねた状況を想定すると、80*9.8*0.002で、1.568Jのエネルギーがインピーダンスロスになる。一方で、空気圧を下げて1Wの転がり抵抗を増やすというのは、1秒に1Jのヒステリシスロスが常に発生することを意味する。タイヤの空気圧を限界に高めて鏡のような平滑路面を走った場合のヒステリシスロスよりも2W程度高いヒステリシスロスになるように空気圧を低めるというのが最適空気圧の一般的な考え方だ。その状態だと、最大空気圧に比べて、2mmの跳ねが1秒間に1.275回以上起こるような路面では得になる可能性がある。重心の高さを2mmも上げる跳ねが起こるというのは段差や亀裂を踏んだ場合だけであり、空気圧を低くしたところで2mmの跳ねをゼロにできるわけでもないが、1mmやそれ以下の微細な振動によるインピーダンスロスも全て合算すれば、一般的な舗装路だと1秒に2Jくらいのインピーダンスロスが減らせるというのは妥当なところだろう。ここで重要なのは、空気圧が低すぎても駄目ということだ。「太いタイヤだと空気圧を下げて乗り心地を良くできる」という言説を鵜呑みにして、全く振動が感知できないくらいに空気圧を下げてしまうと、ヒステリシスロスが高くなりすぎて常に遅くなってしまう。振動を拾った時の印象は振動を拾っていない時の印象より大きいという認知バイアスがあるので、体感で空気圧を最適化するのは困難だ。実際のコースを空気圧以外は同一条件にして走って時間を比べるというのが確実な方法だが、キャノンボールの経路でそれをやるのは現実的じゃない。結局のところ、SRAMのツールなどを使って一般的な設定をしておくのが無難であり、色気を出して体感で最適化するのは止めておいた方がよい。

実際に走ってみると、Agilest Fast 30Cに比べて、やはり乗り心地が良い。アスファルト亀裂で間に草が生えているような広めのものを踏んだ際に手や尻にかかる衝撃が顕著に減っている。サイドウォールが頑丈な分だけ硬さを感じるという心配は杞憂だった。強い衝撃が加わった際には適度に変形して衝撃をいなしてくれるらしい。ロングライドの後半での垂れや精神崩壊を防ぐのにうってつけだ。これはタイヤの銘柄の違いというよりは、太さの違いによるものが大きそうだ。それでいて、良好な路面での路面抵抗が増えた感覚はない。乗り心地を向上させようとして適性より低い空気圧にすると若干のモッサリ感が出るが、適正空気圧にするとそれが消えてキビキビ感が出る。路面の凹凸を拾った上下運動が少ないながらも、踏み込んでから加速感を感じるまでの遅延の増加がないので、食いつきが良いという感覚が生まれる。少なくとも、国道18号の白線周辺を走っている限りは、Agilest Fast 30Cと遜色ない走りができる。これに関してはタイヤの銘柄として良い仕事をしていると評価すべきだろう。実際にはAgilest Fast 30Cの方が若干速いはずなのだが、乗り心地の良さでGEが上がるおかげか、少なくとも遅くなった気はしない。

グリップ性能に関しては、まだわからない。ロングライドにおいてダウンヒルで数秒を削ることはほぼ無意味なので、私は急ブレーキや急旋回をなるべくしないようにしている。とはいえ、事故回避のための急制動をする可能性はあるので、グリップ性能は重要だ。しかし、それを試すにはブレーキロックさせるような急ブレーキやスリップするギリギリの急旋回を繰り返す必要があるのだが、タイヤと自分の寿命が縮むのでやりたくない。とりあえずAgilest Fast 30Cと同じグリップ性能を期待して普通に乗っている限りではブレーキロックやスリップは今のところ起きていない。ASはSよりもウェットコンディションでのグリップ性能が良いらしいが、それも試せていない。偶発的な雨は避けられないので、その際に速度を落とす必要が減るのであればありがたい。

とりあえず、GP5000 AS TRで乗り心地が明確に良くなったのと、顕著に遅くなった実感はないということで、良しとする。タイヤ銘柄変更と幅変更を同時に行ったことで、考察が難しくなっているが、予算は限られているので仕方がない。銘柄変更によってCE(cycling economy)の計算上は20分遅くなるはずだが、それは良路面での計算結果であり、幅変更によってある程度相殺されれば、実地での差はもっと小さいかもしれない。また、乗り心地の改善によるGE(gross efficiency)の増加で、より多くのパワーを継続して出せるならば、CEの低下をある程度補う効果が期待できる。耐パンク性能や耐摩耗性能に関しては、長く乗らないと何とも言えないが、製品仕様と新品であることから考えると圧倒的に改善しているはずだ。総じて、ロングライド用、ブルベ用、キャノンボール用のタイヤとしてGP5000 AS TRを選んだことは妥当と言えよう。規定時間に間に合う確率を最大化するのと、最短時間を追求するのは、似て非なる要求だ。

タイヤセーバー

耐パンク性能を上げるためにタイヤセーバーという部品が昔あった。フロントフォークやシートステーの間にタイヤに触れないギリギリの位置に金属板をつけることで、タイヤに付着した異物を弾き飛ばすものだ。踏んだ瞬間にパンクしなくても、付着していると2周目以降でめり込んでパンクするかもしれず、それを抑止するのが目的だ。しかし、金属板を貼り付けると重くなるし、タイヤは空気圧や気温や摩耗や衝撃によって変形するので、金属板だとギリギリに近づけることはできない。

そこで、同じ場所にビニールテープの橋を渡して同じ目的を達成する方法がある。ビニールテープなら触れても削れるので、本当にギリギリに設置でき、重量増加もほぼない。私もこれをやろうかと一瞬思ったが、やっぱり止めた。自転車のタイヤ断面は直線ではなく円形なので、テープで直線の橋を渡す方法だと、タイヤの中心丁度に刺さった異物しか除去できない。テープを円形に切っても中心以外の張力が維持できないからだめだ。テープを水平以外の方向に何枚も貼ることも考えられるが、汚らしいし、空気抵抗も増える。そして、そもそも、タイヤセーバーの効果のエビデンスがない。付着した異物が2周目以降にパンクを起こす確率がどれくらいか、そしてそれをタイヤセーバーが除去できる確率がどれくらいか、誰も知らない。エビデンスがないし、機序を論理的に考えても怪しく、気休めにすらならないので、却下した。

追加の水

ドリンク750mlのボトルに入れる特製ドリンクだけだと、これからの季節では水分が足りない。あと500mlくらいの水を傾向したいところだが、ツール缶と750mlボトルでシートチューブとダウンチューブのドリンクホルダーは埋まっている。ダウンチューブ下にドリンクホルダをつける案は、フレームサイズが小さい車体だと前輪と干渉するので不可能だ。サドルバッグに空き容量はない。サドルバッグ下の空間も、フレームサイズが小さいとボトルを置けるほどはない。

原始的だが、サドルバッグの上部にあるバンジーコードで500mlのペットボトルを挟むことにした。本来これはウインドブレーカーなどを置くためのものだが、水用の柔らかいペットボトルならバンジーコードの圧力で凹んでうまいこと保持できることがわかった。500g程度の質量であれば左右に車体を振っても落ちることはない。

ルート選定

東向き(大阪→東京)のルートを作り直した。経路を細かく分けてGoogle Maps等でルート検索した結果をgpx.studioに貼り付けて結合していく作業を予定していたが、結局それが走りやすい道かどうかはよくわからないので、先駆者のルートを切り貼りする形に落ち着いた。参考にしたのは以下のものだ。有用な情報を公開してくれていることは本当にありがたい。

基本的には前回実際に走ったルートを踏襲する。つまり、伊賀越え、浜名湖北側、御殿場越えである。前回迷った部分である、清滝峠、名古屋市内の専用道回避、島田岡部線、富士市内の専用道回避、246進入後の専用道回避あたりはストリートビューやStravaのヒートマップを見て再確認した。その結果としてできたのが以下のルートだ。距離515.5km、獲得標高3427mということになった。

浜名湖北ルートの本坂トンネル前で200mくらい登るのと、浜名湖南ルートで距離と信号が多いのと、どっちがマシだろうか。同様に、獲得標高が高いが距離は短いのと、獲得標高が低いが距離や信号が多いという選択肢は数多くある。個人的には、前者を好む。なぜなら、パワーメーターでパワーの管理ができ、超乙女ギアでケイデンスの管理もできるならば、疲労度は走行時間に比例するからだ。斜度はどうあれ、150Wで30分で通過できるルートと、150Wで40分で通過できるルートがあるなら、前者を選ぶべきだ。同じ判断基準を伊賀vs鈴鹿や御殿場vs箱根に当てはめると、今回のルートの妥当性が明確になる。

休憩ポイントを仮想PCと呼ぶことにするが、伊賀、名古屋、磐田、富士、秦野あたりの適当なコンビニを仮想PCにする。そこではオニギリを食って飲み物を補充する所作も含めて、10分くらい滞在する。磐田の仮想PCでは、チェーンオイル注しとシャモアクリームの塗り直しも行う。

風見鶏リセマラ戦略の考察

追い風2m以上が多くの区間で期待でき、雨天の確率が低い場合にみ出発するという方針は継続する。また、名古屋でグロス速度が予定以下だったら引き返す方針も継続する。前回は風の予報は概ね当たっていて、翌日昼からは追い風を受けて楽に走れた。静岡で急な雨に降られたが、これは予報外であった。予報外のものは仕方がない。走行履歴を見ると雨の時間帯での速度は確かに落ちているが、暖かい季節であれば、数時間くらいなら濡れながら走っても致命傷にはならない。

名古屋リセット判定の後に悪条件が発生しても、達成確率がゼロでない限りは続行するという方針は継続する。タイヤや天候の違いで前回のペース配分とは異なる展開になるはずだが、それを実地で検証できるのが重要だ。名古屋までの道程で相場感を掴み、それによって達成確率を判断するという意味で、秘書問題のヒューリスティックから着想を得ている。もちろん、意思決定した瞬間に達成するわけでもないし、達成しさえすれば質は問わないので、問題の構造は全然違うが。前回の敗因はまさにこの戦略の欠点を踏んでいて、御殿場という最も嬉しくない場所から多大な時間と金をかけて帰宅するという結果になってしまった。しかし、これは仕方がない。かけるコストと達成率のバランスが最も良いと思われるので、めげずに続ける。

名古屋で止めて数日内に大阪から再試行するためには、機材が健全もしくはその修復が容易であることとと、体力的に数日で回復することが条件となる。前回起きたタイヤの損傷はその条件に当てはまらなかったので、たとえ名古屋で止めていたとしても、長野に帰るしかなかった。大阪や名古屋の自転車屋でタイヤやその他の機材を調達して自分で修理するという案もあったが、整備は落ち着いてやらないとミスが起きそうなので、却下した。

風見鶏リセマラ戦略があることは、タイヤの選定にも関わっている。風などの環境が好都合であることを前提とすると、グロス平均速度に余裕が出やすい。その場合、期待値として最速であることよりも、グロス平均速度が規定値以上になる確率を最大化する戦略が選べる。そうでない場合、グロス平均速度がギリギリであることを想定せねばならないので、パンクするかもしれないが、パンクしない確率に賭けた、走行性能最大化の戦略を取ることになる。しかし、チューブレスでもパンクするレベルだと、出先で復旧できない可能性が高いので、パンクに対するリセマラというのは現実的じゃない。

以上の経緯で、前回は、長野に帰ってからの完全な再挑戦という形に落ち着いた。移動に膨大な金と時間がかかるのが残念なところだ。たとえ不屈の闘志があっても、無尽蔵の資金と自由時間があるわけじゃない。よって、長野に戻る確率をできるだけ抑えるための戦略は重要だ。自宅がせめて太平洋ベルトにあればもっと楽なんだけど、調整不能な変数に拘泥することに意味はない。

暑さ対策と天気予報

既に夏至を過ぎて、どんどん気温が上がっている。すぐにでも大阪入りして風見鶏を始めるわけだが、あと数日は雨の予報だ。21日の夕方に大阪入りして22日の夜に出走するのが最短となる。既に暑さが走行時の負担になる季節になっているので、それも出走可否の検討要素に入れる。といっても、できることは限られている。晴れよりは曇りの日を優先するのと、日焼け止めと水分補給と衣服の選択に気を使うくらいだ。6月中なら薄着で走れば、11時から4時くらいの暑い時間にぶっ通しで走ってもまだギリギリ大丈夫だろう。その程度のことは過去の自転車旅で数え切れないくらいやっているし、暑熱順化もとっくにできている。とはいえ、さすがに真夏日になると厳しい。なんとか6月中に勝負をつけるのが最大の暑さ対策だろう。

ここ数日の気圧配置は梅雨に典型的なもので、茨城の東に400kmくらい進んだ海上に低気圧がある。低気圧から南に梅雨前線が伸びて、それが南西、西と曲がって太平洋上に滞留している。コリオリの力により、北半球では低気圧には反時計回りで風が吹き込む。梅雨前線が低気圧に引きずられている状態では、低気圧中心から西側の前線が南に蛇行するのは風向きにより確定的になる。その蛇行部分の北西に自分が居るのが理想だ。ほぼ真西から風が吹き、南東にある前線付近の雲をさらに東に遠ざける。そうなるには、前線が東西に通過する緯度が北関東から南東北のあたりなのが望ましい。低気圧が北寄りすぎると前線が自分の真上になってしまい、低気圧が南寄りすぎると風向きが安定した真西にならない。ちょうど良い緯度なら、東進する低気圧を追いかけて走行すれば、追い風を受けながら、晴天または曇天である天候が変わる前に完走できる。ミクロスケールやメソスケールの気象は地形などによって影響を受けるので、24時間常に追い風というわけにはいかないし、にわか雨に合う可能性もあるが、マクロスケールで恩恵を受けられれば十分だ。出発時間を22時に固定するとその理想的時間を逃す可能性があるので、出発時間を前後6時間くらいずらして柔軟に調整することも検討している。いずれにせよ、気象を操作できるわけではないので、調査を密にして機会を待つしかない。低気圧が関東付近に来そうな日程で大阪入りして待機して、条件が整ったら出走する。この時期は低気圧が定期的に東西に通過するので、緯度さえ一定範囲に収まっていれば狙い通りの目が確率は十分にある。大阪滞在にも名古屋リセマラにもコストがかかるので、それらのタイミングを測る上で天気予報は重要だ。気圧配置の解釈には中学2年の理科の知識を使っているだけだが、これでもしうまく行ったら、諸葛孔明の気分になれるだろう。

禅コックピット

以前にも書いたが、私は走行中に速度を一切見ない。ブルベやキャノンボールの場合、常に地図と経路を把握する必要があるので、サイコンの画面は地図ページを表示していることがほとんどだ。そこに追加で表示するメタデータは、現在ケイデンスと現在心拍数と現在3秒平均パワーとギアの4つだ。心拍数は135bpm未満にし、パワーは150W周辺になるように努力する。心拍数とパワーの管理に最善を尽くしていれば、速度は結果として付いてくる。最善より上はないので、もしそれで速度が出せないとしても、頑張って踏むと長期的には損をする。速度を見て行動変容することがないなら、表示して認知ノイズと焦りを生むことは無意味だ。ただし、仮想PCに到着した時にグロス速度の確認だけはする。それを見て次の仮想PCまでのパワーの配分を微調整するが、最善である150W近辺から目標パワーを逸脱させるのは、本当に切羽詰まった時だけだ。そうならないように事前計算をしている。

ケイデンスは60から80の間に収まるようにし、そのために適切なギアを選ぶ。Di2のシンクロシフトを使っているので現在のギアを知らなくても理論的に最もなだらかな変速調整ができるようになっているが、それでも現在のギア比を表示しているのは、フロント変速の際の変速ショックに備えるためだ。アウター4速から下げるとインナー7速になり、インナー9速から上げるとアウター6速になるわけだが、それらの遷移の間の0.5秒くらいはトルクを緩めたい。さらに言えば、アウター4速でも乗り切れそうならケイデンスが短期間50rpm台に下がっても許容するとかいった柔軟な運用もする。シンクロシフトを使っているのにそんなことを考えるのは本末転倒じゃないかという話もあるが、24時間の孤独の中では変速比をいじくるのが結構な退屈しのぎになるのだ。スクーターよりスーパーカブが楽しいが、グロムよりスーパーカブが疲れにくいみたいな話だ。

トレーニングとL2上限再考

FTPが223Wでパワーウェイトレシオ3.43W/kgというのはキャノンボールの基準としては低い。FTPを一気に上げることはできないが、次の挑戦までには地蔵峠の登坂を集中して行って走力の向上に務めている。180W以上維持を目安にして1時間登ると頂上について、平均190Wくらいになるのだが、それを毎日やる。それと下界での買い物を組み合わせてTSSが1日合計で100になるように調整し、オーバートレーニングにはならないようにする。ここ4日間続けているが、身体の調子は問題ない。

自宅は900mで頂上は1730mなので、地蔵峠を登ると高地トレーニングの効果が期待できる。実際、湯の丸高原にはGMOアスリーツパーク湯の丸という高地トレーニング施設があって、陸上やら水泳やらのエリートたちが利用しているらしい。で、私はFTPを地蔵峠の登坂で測っているわけだが、おそらく酸素濃度の低さから下振れした値になっている。最近のブルベやキャノンボールとその準備で鍛えられてFTPが上がっているのと、計測値が下振れしていたのもあるだろうが、下界にて計算上のL2上限である167Wを越えた180Wくらいで漕いでいても息が上がらない。もし180WがL2上限だとすると、真のFTPは0.75で割った240ということになる。そんな推定値ではなく下界でFTPの測定をするのが確実なのだが、信号がなくて安定的にパワーが出せるコースを見つけられていないので簡単にはできない。さしあたっては、キャノンボール再挑戦では、一時的になら巡航時に175Wまでは出してよいことにする。おそらくそれは実際のL2上限未満であり、かつ30km/hを越えた速度を維持してネット平均時速を高め、より多くのマージンを作って完走率を上げるのに貢献する。

まとめ

大阪東京キャノンボールの再挑戦に向けて、GP5000 AS TRを選択し、その走行性能を検証した。風見鶏リセマラ戦略の継続し、パンクを回避し、ルート間違いによる遅延を回避するなら、再挑戦での達成確率が高まると期待できる。あとは行動あるのみ。

Twitterとかを見ていると、キャノンボールの挑戦者のほとんどはあっさり成功させているように見える。成功しそうな能力がある人だけが挑戦するという生存者バイアスと、成功したときだけ書き込んだりシェアされたりするという観測バイアスがあるのは分かる。それにしても、彼ら彼女らはなぜ成功したのか、言い換えると個々の潜在的失敗要因をなぜ初回から潰せているのか。私が理屈っぽく書いていることのいくつかは、暗黙の常識として実践されているのかもしれないし、いくつかは実際の効果がないから実践されていないのかもしれないし、いくつかは本当に役立つ知見なのかもしれない。いずれにせよ、達成談や失敗談について経験者に聞いてみたいものだ。