2025/02/28 15:22
桜の樹の下には
桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これ…
2025/02/28 15:22
檸檬
えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけな…
2025/02/28 15:22
セメント樽の中の手紙
松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートを除りたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コ…
2025/02/28 15:22
走れメロス
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシ…
2025/02/28 15:22
よだかの星
よだかは、実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。
足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。
ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合でした。
たとえば、ひばりも…
2025/02/28 15:22
ごん狐
一
これは、私が小さいときに、村の茂平というおじいさんからきいたお話です。
むかしは、私たちの村のちかくの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。
その中山から、少しはなれた山の中に、「ごん狐」という狐がいました。ごんは…
2025/02/28 15:22
赤い蝋燭
山から里の方へ遊びにいった猿が一本の赤い蝋燭を拾いました。赤い蝋燭は沢山あるものではありません。それで猿は赤い蝋燭を花火だと思い込んでしまいました。
猿は拾った赤い蝋燭を大事に山へ持って帰りました。
山では大へんな騒になりました。何しろ花火などというものは、鹿
2025/02/28 15:22
トロッコ
小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行った。工事を――といったところが、唯トロッコで土を運搬する――それが面白さに見に行ったのである。
トロッコの上には土工が二人、土を積んだ後…
2025/02/28 15:22
蜜柑
或曇った冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待っていた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はいなかった。外を覗くと、うす暗いプラットフォオムにも、今日は珍しく見送りの人影さえ跡を絶って、唯、…
2025/02/28 15:22
羅生門
ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨…