国文学のブログ

日本語の文学作品を紹介

日本語の文学作品を紹介します。青空文庫から10分程度で読める短編を選んで転載しています。


今月のおすすめ

2025/02/28 15:22

トロッコ

  • 芥川龍之介

小田原熱海あたみ間に、軽便鉄道敷設ふせつの工事が始まったのは、良平りょうへいの八つの年だった。良平は毎日村はずれへ、その工事を見物に行った。工事を――といったところが、ただトロッコで土を運搬する――それが面白さに見に行ったのである。

トロッコの上には土工が二人、土を積んだうしろたたずんでいる。トロッコは山をくだるのだから、人手を借りずに走って来る。あおるように車台が動…

2025/02/28 15:22

赤い蝋燭

  • 新美南吉

山から里の方へ遊びにいったさるが一本の赤い蝋燭ろうそくを拾いました。赤い蝋燭は沢山たくさんあるものではありません。それで猿は赤い蝋燭を花火だと思い込んでしまいました。

猿は拾った赤い蝋燭を大事に山へ持って帰りました。

山では大へんなさわぎになりました。何しろ花火などというものは、鹿しかにしてもししにしてもうさぎにしても、かめにしても、いたちにしても、たぬきにしても、きつ…

2025/02/28 15:22

ごん狐

  • 新美南吉

これは、わたしが小さいときに、村の茂平もへいというおじいさんからきいたお話です。

むかしは、私たちの村のちかくの、中山なかやまというところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。

その中山から、少しはなれた山の中に、「ごんぎつね」という狐がいました。ごんは、一人ひとりぼっちの小狐で、しだの一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。そして、夜でも昼で…

2025/02/28 15:22

よだかの星

  • 宮沢賢治

よだかは、実にみにくい鳥です。

顔は、ところどころ、味噌みそをつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。

足は、まるでよぼよぼで、一間いっけんとも歩けません。

ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合ぐあいでした。

たとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、よだかにあ…

2025/02/28 15:22

走れメロス

  • 太宰治

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれたのシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は…

2025/02/28 15:22

セメント樽の中の手紙

  • 葉山嘉樹

松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色におおわれていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートをりたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。

彼は鼻の穴を気…

2025/02/28 15:22

檸檬

  • 梶井基次郎

えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終おさえつけていた。焦躁しょうそうと言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔ふつかよいがあるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖はいせんカタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。以前私を喜…

2025/02/28 15:22

桜の樹の下には

  • 梶井基次郎

桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!

これは信じていいことなんだよ。何故なぜって、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。

どうして俺が毎晩家へ帰って来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、りに選って…