サドルVT20Cをブロンプトンに導入
Selle SMPのショートサドルVT20Cをブロンプトンに導入した話。私の狭い坐骨幅にぴったりで、脚が動かしやすく、太腿の付け根の擦れを抑止してくれる。それでいて十分なクッション性があり、坐骨周辺の痛みを抑止してくれる。穴開きなので会陰部の痛みもない。私にとっては絶妙な形状であった。

今まではVT30C
私のブロンプトンには長らくSelle SMPのVT30Cを装着していた。これで日本一周もしたし600kmブルベも完走した。
Selle SMPのサドルの最大の特徴は波形の形状になっていることだが、VTシリーズでは例外的に後部の盛り上がりを省略していて、尻の位置を動かしやすくなっている。サドル表面のテクスチャもスベスベしていて、尻の位置を動かしやすい。私はDHバーを握る際や強めに漕ぐ際に尻を前にずらした前乗り体制になることが頻繁にあるので、波形よりは、ノーズ部だけが垂れ下がる嘴型の方が都合が良い。VTシリーズはクッション性が必要十分で、パッドとシェルが同時に撓むバネ感があるのが良い。
SMPのサドルはレールが長いのも特徴的だ。シートポストが後方にオフセットしているブロンプトンではサドルは前方にオフセットするのが定番だが、私のカーボンシートポストは前方オフセットがないヤグラを搭載しているので前方オフセット量に限りがある。そこで長いレールが役立ち、限界まで前に詰めて設定することで、丁度良い前後位置になる。また、VT30CのCは長さが短いショートサドルの意味であり、前後長が155mmと短い。そうすると限界まで前に設置しても乗り降りの際にノーズがズボンにひっかかりにくいのが良い。
VT30Cを気に入って3年ほど使っていたわけだが、VT20Cの存在が以前から気になっていた。両者の違いは、幅が155mmなのか144mmなのかだ。私は坐骨幅は10cmほどであり、それは一般男性の下限レベルなので、狭いVT20Cの方が普通に考えて適しているはずだ。VT30Cの最適坐骨幅は11.6cmから15cmまでで、VT20Cの最適坐骨幅は9.0cmから11.5cmだそうな。それでもVT30Cを使っていたのは、たまたまオークションに出ていたのを入手できたからだ。また、実際に使ってみると良かった。ブロンプトンの乗車姿勢はロードバイクよりも直立気味であり、サドル荷重が大きくなるから、より広い面積で受け止める方が圧力を下げられる。また、高出力高ケイデンスというというよりは、低出力低ケイデンスで走ることが多いので、高速に脚を動かして太腿が擦れる心配もない。サドル沼はそれで卒業したとみなし、幸せに暮らしていた。
VT20Cの出現
先日、たまたまヤフオクを見ていたら、VT20Cが4900円で出品されていた。VT20Cが出品されている事自体が珍しいのだが、こんなに安いのはもっと珍しい。当然理由があって、表面や側面に傷があるとのこと。とはいえ写真を見る限りではカバーが破れているわけじゃなくてちょっとした擦れ傷があるだけなので、乗車感には全く問題なさそうだ。私のVT30Cも同等程度の擦れ傷があるので、問題ない。てことで、ポチった。

VT30CがあるのにVT20Cを買うとは、サドル沼の再来じゃないかとも思う。しかし、「もっと狭かったら脚が動かしやすいんじゃないか」「あのときVT20Cを買っていたら試せたのになぁ」と思いながら走るのがストレスになりそうなので、サドルレンタルしたと思って買ってみることにしたのだ。
製品が到着した。状態は出品者の写真通りで、全く問題ないものだった。重さを図ってみた。左のVT20Cが267.7gで、右のVT30Cが268.2gだ。つまり重量はほぼ同じだ。狭くなった分で軽量化していないということは、両者で同じシェルとパッドを使っていて曲げ率だけ変えているのかもしれない。いずれにせよ、カーボンサドルとかに比べると重いが、もともと重いブロンプトンなので、サドルで軽量化しようとはあまり思わない。


VT20CとVT30Cを並べて上から見ると、形がほぼ一緒でありながらも、幅はVT20Cの方が狭いことが確認できる。側面から見た形もほぼ一緒だ。


さっそくつけてみた。VT30Cと長さが同じで幅が11mm狭いだけなので、見てくれは同じだ。離れて見たら区別がつかない。レールの形状もVT30Cと全く同じなので、前後位置も問題ない。ピッチ角度は、ノーズの曲がりが始まる直前の部分が完全水平になるようにするのが私好みだ。サドルの表面がツルツルだと、尻の位置を頻繁にずらしても摩擦で皮膚が痛くならない利点がある反面、着座位置が水平でないとずり落ちる欠点がある。よって、前下がりになりすぎないように注意すべきだ。

SMPのサドルはレールのパイプの継ぎ目がノーズ部分にあって後方の強度が高くなっていて、これは特許の機構らしい。レールの後端ギリギリで固定する私には特に有用な特性だ。それはいいのだが、サドル後端でレールを挟み込むブリッジについている反射板がダサい。近年のモデルでは黒くて白文字のデザインになっているのだが、ちょっと古いモデルでは白くて黒文字のデザインになっている。サドルが黒いのに反射板が白なのはダサいので、これは速攻で剥がして、3Mの黒い反射シートを貼り直した。人の前を走るとサドル後端って意外に目立つので、そこに「SMP!!」と主張されているのがダサく感じたというのもある。私の名前はSMPではない。



乗車レビュー
一言で言うと、快適。VT30Cの幅を狭めただけという表現が全てを表す。VT30Cの美点を全て引き継ぎ、脚が動かしやすくなっている。つまり、尻の置き場の自由度や適度なクッション性はそのままながら、太腿の付け根のひっかかりが減って、ペダリングに伴って皮膚の一部が引っ張られるような感覚がなくなった。ケイデンスを高めにして1日走っても、擦れて痛くなることがない。これは、良いものだ。

これはVT30Cと共通のことだが、やはり衝撃吸収性が良い。シェルが撓むのと、パッドの厚さが絶妙なのが奏功している。ブロンプトンは後輪にサスペンションブロックが付いていて、そこそこ大きい衝撃も和らげてくれるのだが、そもそも小径車なので地面の凹凸や段差に乗り上げた際の衝撃が700C車とは段違いだ。それでも、VT30CやVT20Cにすると、衝撃で尻が痛くなることがほとんどない。
残るは長時間の圧迫に起因する痛みと摩擦に起因する痛みだが、それら関しては形状の妙によって和らげてくれる。横断面図にすると蒲鉾型になる座面が尻との接触部の形状に沿うようになっていて、うまいこと圧力を分散してくれる。座面の左右の端が「なで肩」なので、そこでの圧力集中も無い。なで肩なのはペダリング時の摩擦の軽減にもなっている。VT20Cは私の坐骨の形状にさらに適した幅になったことで、座面端部分(=太腿の付け根部分)の圧力と摩擦の痛みが減るという機序は納得のいくものだ。
乗車姿勢が一緒なら荷重は一緒だ。宇宙は物理に支配されていて、全ての場所の圧力が減るような魔法はない。どこかの圧力が減ったなら、そこが受け止めていた重みは別の場所で受け止めなければならない。VT20Cになって座面左右端の圧力が減ったとすると、当然そのしわ寄せは座面中央に来なければならない。つまり坐骨周辺の圧迫が増して痛みが出やすくなるはずだ。おそらくそれは事実なのだろうが、今のところ問題になっていない。坐骨周辺はもともと圧迫に強く、また長いロングライド経歴で周辺組織が強くなっているので、多少圧力が増したところで痛くなりにくい。また、既に述べたようにシェルとパッドが良い仕事をしてくれて、乗車1G状態でもわずかに撓むことで圧力がどこかの一点に集中することを防いでくれる。
DHバーを握った際にもいい感じだ。VT30CもVT20Cも、ノーズが嘴のように下に曲がっていて、かつ会陰部の穴開きがノーズの先端まで続いている。DHバーを握ると極端な前傾姿勢になるわけだが、その際には骨盤が若干前転して、坐骨より前の恥骨に近い部分が座面と接することになる。その際に会陰部に圧力が集中するのはある程度は仕方ないことなのだが、その部分だけ若干前下がりになり、かつ穴開きで中央の圧力を上げないことで、会陰の奥にある尿道に過度に圧迫されないようになっている。そのおかげで、DHバーをずっと握っていても尿道がおかしくならない。通常姿勢とDHバー姿勢を適宜切り替えることでそれぞれの姿勢で圧迫される組織を休められることは、ロングライドで非常に有利になる。
総じて、4時間程度のサイクリングであればクッションなしパンツでも全く問題なく走れる。それを超えると若干の違和感が発生して休憩したくなってくるが、痛いってほどではない。やってはいないがおそらく10時間の走行もクッションなしパンツでも耐えられる。クッション付きパンツを履くなら、痛みの問題は完全になくなり、10時間だろうが24時間だろうが余裕で耐えられる。クッション付きパンツを履いても摩擦は防げないが、VT20Cが摩擦を減らしてくれることは痛み軽減に貢献していて、さらにシャモアクリームも塗れば完璧だ。VT30Cで600kmブルベを走っても耐えられたので、それよりさらに私に適すると思われるVT20Cならもっと楽だったはずだ。
なお、「直立気味の乗車姿勢で低ケイデンス気味だと幅広の座面が良い」という最初の前提は、変わっていない。VT20Cが緩和するのは主に座面端の圧力とペダリングによる摩擦であり、その分だけ坐骨周辺の圧力は上がっている。よって、坐骨幅が狭い私でも、どっかりと座ってゆっくり漕ぐのであれば、VT30Cの方が快適だ。とはいえ、日常生活やロングライドにおける私の乗り方はもうちょいスポーティなので、VT20Cの方が自分に合っていると思う。買ってよかった。
サドル沼の振り返り
実のところ、ブロンプトン純正サドルも別に悪いサドルじゃない。それに座ってクッションなしの普通の下着と短パンで100km超えのロングライドを普通にしていた。しかし、やはり100km前後になってくると痛くなって、座っていられなくなるので、終盤はずっと立ちこぎをするなどしていた。その後、GorixのA6-1とかRyet Aircode 3D HoneycombとかPrologo Kappa Evo PASとか使ったが、どれも定着には至らなかった。
Prologo Kappa Evo PASは形が私の尻に合っていたらしく、パッドが固い割には痛みが出るまでの時間が稼げて良かった。パッドが固い方がヒステリシスロスが小さいので、体感できない程度にしろ総効率は上がるはずだ。それ以上に、脚の運動を妨げない形状であることが走行性能の観点では重要だと思い知った。とはいえ100km程度で痛くなるのは旅やブルベを考えると話にならない。Kappaは今はロードバイクのAnchor RFX8につけて、そのまま倉庫に眠っている。

ブロンプトンといえばBrooks等の革サドルが定番と言われるので、それも検討した。ナローインペリアルってモデルなら坐骨が狭い私にも合っていそうで、中古でもそこそこ玉数が出ている。

革サドルは長く乗ると革がが伸びて自分の尻の形になって快適になるそうな。しかし、それは乗車姿勢と着座位置が固定であることを前提としているので、少なくとも私の乗り方では不都合が多い。それにサドルの前後を固定して革のハンモックで柔軟性を確保するという方式は、必然的に中間部は柔軟だが前後に近づくと固くなるわけで、着座位置を前にずらすと硬い部分が会陰部に当たることになってしまう。両端から引っ張って剛性を調整する機構も、中央部と周辺部を個別に調整できないという欠点がある。「高価なサドルを買い、定期的にオイルを塗り、痛みに耐えて慣らしをしたのだから、これは自分の尻専用の最高のサドルになったはずだ」という労力正当化のバイアスを抜きにすると、よほどの好事家を除いたほとんどの自転車乗りにとって最善のサドルとは言い難いのではないか。現代的なサドルがシェルの硬さとパッドの厚みを調整しているのにはちゃんとした理由があるのだ。
それらの検討を経て、ブロンプトンにはVT30Cが定着し、さらに今回VT20Cに入れ替わって、現在に至る。ショートサドルを前に出して付けると前乗り気味に乗っても尻をしっかり支えられて、DHバーと組み合わせるとロングライドでの尻HPの維持がしやすいというのがVT30Cからの学びだ。その考えに基づき、ロードバイクのAnchor RE8にはLiteFly2というカーボン製のショートサドルを導入した。これはかなり軽量なカーボンサドルでありつつもそこそこパッドが厚くて気に入っている。600kmブルベや520km大阪東京キャノンボールでも耐えられたので、ロードバイクのサドル沼からも抜けられている。 [screen]
VT20CをRE8につけてみたらどうかと思ってやってみた。こちらも、かなり良い。快適性だけで言えばLiteFly2よりも良い。LiteFly2は幅143mmのモデルなので、左右の端がなで肩ではない割には脚が動かしやすいが、ノーズが細くて穴がノーズ先端に届いてないので、DHバーを握って前乗りすると若干会陰の負荷が高くなる。VT20Cにはその問題がない。しかし、LiteFly2は154gという軽量さが強みなので、ロードバイクにはそれが合っている。ブロンプトンにはVT20C、RE8にはLiteFly2という体制で満足している。
結局のところ、サドル選びで最も重要なのは、坐骨幅とペダリング方法に合った左右断面のものを選ぶことだと思う。以下の図に示すように、坐骨幅が狭いのにサドルの幅が広かったり左右端の肩が張り出していたりすると、太腿の付け根が痛くなってしまう。逆に、坐骨幅が広いのにサドルの幅が狭かったり左右端がなで肩になっていたりすると、中央に圧力が集中して痛くなってしまう。

ただし、狭い坐骨幅の割に座面が広い場合でも、ケイデンス低めでゆったり漕ぐなら、太腿の付け根が圧迫される頻度が低いので、それでもいい。また、広い坐骨幅の割に座面が狭い場合でも、ペダル荷重を高め、サドル荷重を低めにしてスポーティに漕ぐならば、脚の運動にじゃまにならない方がいいので、それでもいい。つまり、骨格と乗り方の組み合わせ問題になる。よって、万人にとっての最適解がないどころか、個人にとっての最適解すら単一には定まらない。一周回って不便さや不快さを味として好む人もいる。
とはいえ、坐骨幅とサドルの形状の相性は確実に存在し、それが合っていると、ゆったり乗ってもスポーティに乗っても快適になる。私にとってのVT20Cがこれだ。一般的に男性は坐骨幅が狭いので、男性はVT20やVT20Cが合う人が多そうだ。女性にVT30やVT30Cの方が合う傾向にあるかどうかは、女性ではない私が言うべきことではないが、論理的にはそう推論するのが妥当だろう。
前後方向の断面に関しては、私の好みは、ノーズが嘴型の前下がりで、座面中心部と後部がフラットなものだ。フラット部分が水平になるように設置すると、フラットであってもペダリング時に不用意にずれないし、DHバーや下ハンを握ってエアロポジションで漕ぐs際に前乗りになっても会陰部に優しい。

まとめ
ブロンプトンにVT20Cを導入したところ、快適性と走行性能を高い次元で両立した乗り心地が達成できた。坐骨幅の狭い私としては、左右方向で幅が狭くてなで肩の形状であることが望ましい。前乗りが好きな私としては、前に詰めて設置できるショートサドルかつレールが長いものが望ましい。DHバーを握って骨盤を前転させて乗ることもある私としては、ノーズが嘴型に下がっていて穴が先端まで続いていることが望ましい。表面がツルツルで着座位置をずらす際に摩擦で痛くならないのが望ましい。VT20Cはそれらの要求に合致している。シェルとパッドが撓むことによるクッション性も私の好みに合っている。
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