L2サイクリングで痩せるには

サイクリングは痩せないと言われるし、私もそう思っていたが、運動しているのだから痩せないはずがない。どうしてサイクリングで太ると言われるのか、どうすれば痩せるようになるのか、真面目に考えてみた。


なぜ太るのかと言われれば、消費カロリーよりも摂取カロリーが多いからだ。ではなぜサイクリングで太る人がいるのかと言われれば、補給やご褒美と称して不必要に食っているからだ。それを止めて、必要な分だけ栄養摂取すれば痩せる。簡単な算数の問題だ。しかし、これは、言うは易く行うは難しの典型でもある。実用的な方策を出さねば意味がない。

ブルベに出るようになってコーガン式のパワートレーニングやらスポーツ栄養学やらを少し調べた。学んだことを要約すると、L2と呼ばれる軽めの負荷で運動すると脂質をエネルギー源の半分以上として使う脂質代謝が優勢になり、それを続ければ体脂肪が減るということだ。ただし、以下の条件を守る必要がある。

  • FTP(1時間続けられる最大パワー)の75%以下のパワーしか出さないこと
  • オーバートレーニングにならない範囲で、長めに運動すること
  • 脂質と糖質の消費量は6:4くらいとして、糖質消費分に応じた量の糖質を補給するすること
  • 有酸素運動の間に筋肉が壊れないようにタンパク質やアミノ酸も適切に摂取すること
  • 脂質はなるべく摂取しないこと

それらを全部守るのは難しい。サイクリングで痩せないと言う人が多いのは、つい逆のことをやりがちだからだろう。週末しか時間が取れないのでつい高強度で走ってしまい、疲れるので短時間しか継続できず、それでも頑張った気分になるので補給やらご褒美やらでどか食いしてしまい、さらにラーメンやら焼肉やらの脂っこいものを選んでしまい、筋肉痛になるので翌日以降はろくに運動もせずダラダラ過ごしてしまう。だから太る。

それを踏まえて、科学的に痩せる行動を取れば良い。まず、自転車にパワーメーターをつけて、FTPを測ることが望ましい。私のFTPは223Wで、これは実際に1時間走って平均パワーを測ったものだ。そうすると、167W以下がL2と言われる負荷になる。L2の真ん中として150Wを目安にペダルを漕ぐことにしよう。パワーメーターを持っていない場合、息が上がらずに会話が楽しめる程度の主観的な負荷に抑えることでも、だいたいL2の負荷を実現できる。150Wで2時間のサイクリングをするなら、150×3600×2で、1080kJの仕事をすることになる。1ジュールは0.239カロリーで、自転車のエネルギー効率は24%くらいとすると、双方が相殺されて1080kcalの消費カロリーとみなせる。L2負荷だとほぼ脂質代謝になるので、648kcalは体脂肪から捻出され、432kcalは糖質が使われる。つまり、運動しない日よりも432kcal分のエネルギーを多めに補給して良い。

栄養補給の理想的な方法として、EAA(必須アミノ酸)30gで120kcal、パラチノース(イソマルツロース)78gで312kcalを1.6L程度の水に溶かして摂取することが考えられる。合計432kcalだ。EAAで筋肉の分解を防ぎ、分解が遅くてゆっくり吸収されるパラチノースで血糖値の上昇を防いで脂質代謝の徹底と腹持ちの良さを実現する。2時間程度の運動であれば、運動前、運動中、運動後に分けてその特製ドリンクだけをチビチビと飲めば良い。詳しいレシピは以下の記事に書いた。

他に補給食は不要であり、特に血糖値が急激に上がる高GI食品を摂取してはいけない。羊羹やジェルを食べたり、市販のスポドリやエナドリを飲んだりしてはいけない。道中でラーメン屋に入ってはいけない。血糖値が上がるとインシュリンが大量に出て、脂質代謝を阻害して糖質代謝に切り替えた上で、血糖値を短時間で下げて空腹感を起こすという悪循環が起こる。ゆえに、有酸素運動中は上述のドリンクだけを摂取するのが理想だ。適切な量で低GIの糖質を摂取することで、運動中や運動後の空腹感を抑制して、どか食いを防ぐことができる。もちろん、ご褒美とか打ち上げとかで有害なことをしてはいけない。夏場なら2時間で特製ドリンク1.6Lを飲めるだろうが、そうでない場合は半量くらいでいい。そうすると摂取カロリーが不足することにはなるが、それは運動後にオニギリを食べるなどして補えば良い。プロテインを飲んでも良い。血糖値を下げすぎると筋肉が分解されるので、空腹感を我慢するのは逆効果だ。そもそも空腹にならないように低GI食品を適宜摂るべきだ。ちなみにオニギリなどの冷や飯はレジスタントスターチの割合が暖かいご飯よりも多いので比較的低GIになる利点があるが、食いすぎたら当然駄目だ。

体脂肪は1gで9kcalだが、脂肪組織の20%は水分やその他の構造体なので、脂肪組織1gあたりは7.2kcalになる。648kcalは脂肪組織90gに相当する。つまり、上述の理想的なサイクリングとそれに伴う栄養補給をして、それ以外の余計な栄養摂取をしなければ、サイクリング1回あたり90g痩せることになる。これを月に5回やるなら、450g痩せることになる。通勤時に往復で1時間の自転車通勤をするなら、毎日45g痩せるので、それを月20回やるなら、900g痩せる。L2負荷の運動は肉体的にも精神的にも全く辛くないので、根性論を持ち出さなくても続けられるはずだ。日々の体重は食事や排泄や筋肉の水分量などによって変動するので減量期とか停滞期とか呼ばれる波が出るのが普通だが、それに一喜一憂する必要はない。計算上で体脂肪が減る行為を続ければ、長期的には必ず痩せる。

ここで注意点がある。上述の方針は低強度の有酸素運動に限って適用されるべきということだ。高強度の無酸素運動や筋トレをする際には話は別だ。糖質代謝の強度で運動するならば、それに応じた糖質を適切な量だけ摂取するのは筋肉を修復して維持するのに必要であり、インシュリンは筋肉量を増やす効果すらある。筋トレをする際や、サイクリングでも高強度で追い込む際には、それに応じた糖質をしっかり摂るべきだ。例えば、私が223WのFTPの強度で30分の高強度サイクリングをしたなら、223×1800で、401kJの仕事となり、401kcalを消費することになる。その全てを糖質で賄っているとすると、401kcalの糖質を摂るべきだ。運動の1時間前に高タンパクの食事やプロテインを摂取したり、運動中にEAAを摂るなどして、血中アミノ酸濃度を高めておく。運動中は高GIのスポーツドリンク等を飲んで血糖値も高めておき、しっかりと高負荷を掛ける。運動後にも適宜糖質を摂り、筋肉の再合成を促進する。ここで重要なのは、筋グリコーゲンを使った分だけ速やかに補給するべきということだ。筋グリコーゲンが満タンの時に糖質を過剰に摂ると脂肪として蓄えられてしまうので、使ってからその分だけ補充するというのが大事だ。

L2負荷での運動を続けると、脂質適応が起きて、脂質の利用割合が上がってくる。ゆえに、L2負荷での運動を習慣化できている限りは、痩せやすい身体になってくる。一方で、適切にタンパク質やアミノ酸を摂らないと筋肉量が減るので、それによって基礎代謝が減って痩せにくくなるリスクもある。しかし、適切な栄養摂取をしていれば運動してない人よりは高い筋肉量を維持できるはずだ。運動を継続するとNEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis:非運動性熱産生)が低下する人もいるが、それは負荷が高すぎるからだろう。一般論としては、動ける身体を維持して日々を活発に過ごす方がNEATは上がる。階段とエスカレーターが並んでいたら、ブロンプトンを担いでいる時でさえ、私は階段を使う。

ただし、筋トレだけをしている人よりも筋肉量が低くなるのも確かだ。実際のところ、体脂肪を落としたいのなら筋トレ中心の運動をして基礎代謝を上げる方が効率的であり、それに比べると有酸素運動は時間と手間がかかる。しかし、筋トレで作られる身体と有酸素運動で作られる身体は能力も見た目も異なる。選択の問題だ。サイクリングは低負荷も高負荷も選べて、しかもパワーメーターを使えば確実に負荷と消費カロリーが把握できるのが利点だ。体脂肪を減らして痩せたいなら低負荷の運動をすべきだが、たまに高負荷の運動をしてFTPを高めておくと低負荷の上限パワーが上がって多くのエネルギーを消費できるようになるので、日を分けて両方やるとか、他の高負荷スポーツもしくは筋トレと組み合わせるというのもありだろう。実際のところ、多くのサイクリストは、スクワットやらで高負荷の刺激を与える運動も取り入れて筋肥大を図っているし、私は木刀素振りや懸垂などで下半身だけではなく上半身も鍛えている。

運動負荷と補給を管理して痩せる方法ならば、筋肉量と基礎代謝は維持され、筋持久力と脂質代謝能力は確実に増大するので、体重がリバウンドするリスクが低い。一般的に、筋肉を落とさずに脂肪を落とすのは難しいと言われるが、運動負荷に応じた糖質とアミノ酸を適時かつ適量に補給すれば可能だ。もちろん、運動習慣を中止したのに運動習慣を前提とした補給をしてしまうと、リバウンドするだろう。しかし、運動中にその負荷に応じた補給をするのをセットにしておけば、通常の食事のパターンは変えなくて済む。運動頻度を減らせば補給頻度も減るので、食事のパターンはそのままでも、リバウンドすることはない。

ところで、プチ断食でオートファジーを起こすというアンチエイジングの方法論があるが、全く不合理だと思う。運動習慣のない者がそんなことしたら、カタボリズムで筋肉量が落ちて、NEATも落ちて、さらに動けない身体になり、老化まっしぐらだ。下手すればサルコペニアで要介護になってしまう。運動でもミトコンドリアや各種細胞が新生されるんだから、奇を衒ったことをせずに、適度な運動とその負荷に応じた適度な食事をすべきだ。

繰り返しになるが、パワーメーターを使ったサイクリングほど仕事量と消費カロリーを確実に把握できる運動はそうそうない。それをうまく使いこなせるなら、サイクリングは最も痩せやすい運動になり得る。この方法は高度な自己規律を前提としていて、そもそも高度な自己規律ができる人ならどんな減量法でも痩せられると言われるかもしれない。しかし、この方法は疲労感や空腹感という本能との戦いを徹底して避けているので、一定の時間が取れるなら強い精神力がなくても達成できる点が優れている。

本稿では、サイクリングで痩せるための方法を述べた。低負荷を徹底するのと、計算した補給をするのが重要だ。科学的にやれば、そして余計なことをしなければ、2時間のサイクリングで90g痩せる。運動でエネルギーを使っているのだから、代謝で使った燃料は必ず減らないとエネルギー保存の法則に反することになる。補給を間違えなければ、運動して痩せないはずがない。運動して痩せないなら、補給が間違っている。サイクリング以外の有酸素運動でも、脂質代謝となる低い負荷を徹底して、かつ栄養計算に基づいて補給をすれば、同様に痩せる効果があるはずだ。