Anchor RE8購入とインプレ

ロードバイクBridgestone Anchor RE8を購入した。「Comfort is Speed」という私が好きな標語を具体化している車種だ。その購入経緯と乗車した第一印象についてメモっておく。


購入経緯

レースに出ないエンジョイサイクリング勢にはエンデュランス系ロードバイクが最善であるという旨を前回の記事に書いた。そこでジオメトリの詳細な検討もして、Bridgestone Anchor RE8とSpecialized Roubaix SL8とTrek Domane SL6が私には最善だろうとの結論に達した。

それに基づいてネットを彷徨って掘り出し物を探していたのだが、ジモティーにドンピシャな出品があった。Anchor RE8 105 Di2モデルが35万円ポッキリ。サイズも私にピッタリの420で、ホイールにYOELEO SAT C35 DB PRO NxT SL2、タイヤにPanaracer AGILEST FAST TLR 30C、ペダルにDura-Ace PD-R9100がついているとな。定価にすると489000 + 159000 + 24200 + 35085 = 707285円なので、半額未満で手に入ることになる。

うまい話には疑ってかからなければならないので、出品者の履歴を見た。45件の取引きがあって、良い42、悪い0だったので、おそらく信用できる。というか、自転車をやたら売りまくっているので、おそらく転売のセミプロ的な人なのだろう。何度かメッセージでやりとりして、その個体のサイズを把握していなかったりしたので、多分自分で乗っているわけじゃない。おそらくホイールやサドルの価値に興味はなく、ほぼ本体だけの市場価値で値段を付けているのだ。個々のパーツの市場価値を調査するコストをかけるよりも、採算が取れるならさっさと捌いてしまった方が良いのだろう。公開している写真に傷のアップも載せていて、それはチェーンの擦れとクランクの擦れで多少塗装が剥げているものであったが、それらが最もひどい傷なのであれば、実運用上の問題はない。その程度の傷は数カ月乗れば必ず付くからだ。とはいえ、念の為、現物を確認してからその場で取引きすることになった。

取引日を決めてから、本当にそれで良いのか再検証した。レースに出ないならエンデュランスロードが最高だという結論は既に出ている。エンデュランスロードは、ホイールベースが長くて、トレールが長いことで、旋回性能を犠牲にする代わりに直進安定性を重視している。タイヤクリアランスが大きいので、太いタイヤが履けるし、BBドロップが大きいので、太いタイヤを履いても重心が下がって安定する。

エンデュランスロードのジオメトリで唯一気に入らないのは、スタックハイトが高すぎて乗車姿勢がアップライトになることだ。しかし、Anchor RE8はエンデュランスロードの中ではスタックハイトが低めなのが美点だ。また、Future ShockやIsoSpeedなどのギミックが無い分、重量が軽い。105 Di2モデル完成車の重量が8.5kgで、Roubaix SL8(8.97kg)やDomane SL6(8.90kg)の同グレードよりも軽い。私はギミック大好きなので最初はRoubaixを本命にして調査していたのだが、スタックハイトの高さを相殺するためのカスタマイズに追加出費が必要なのと、重量が嵩むのが気になっていた。とはいえRoubaixの掘り出し物があれば買う気満々だったが、中古市場に弾数が少ないこともあり、購入に至らなかった。そこに突如表れたのが件のRE8の出品である。

もともとAnchor RFX8にMavic Ksyrium SLSという軽量ホイールをつけて運用していた。それは兄の遺品なのだが、自宅のある地蔵峠中腹まで毎日登るのに良い機材だった。その登坂能力に匹敵するには、中古で35万円くらいの車体を買ったうえで15万円くらいの軽量ホイールを買って、総額50万円は覚悟せにゃならんと思っていた。Di2付きのロードバイクはどれも250ccのオートバイ並の値段がするのに辟易して、あと10年くらいRFX8で引っ張ろうという気持ちすらあった。そこに、カーボンホイール付きで総額35万円の出品があったのだから、そりゃ飛びつきたくもなる。

で、YOELEO SAT C35 DB PRO NxT SL2ってどうなのよという話になる。前後合わせて1260gの軽量ホイールで、それはKsyrium SLSの1395gよりも軽い。どの車種の完成車を買ってもホイールは重めなので、以前と同等の登坂性能が恋しくなって追加投資するのは目に見えている。ならば、良いホイールが最初からついているのは絶大な利点だ。そして、内幅23mmの外幅32mmのワイドリムで、それに30Cのタイヤをつけると幅32mmくらいになるだろうから、ちょうどツライチになる。「ZIPPの105%のルール」に基づいて、タイヤの幅よりもホイール外幅がほんの少し太い方が空力的には理想的らしいが、リムの方が外側に出っ張ると障害物に当たって割れる確率が高まるので、レースに出ないならツライチが最善だろう。

リムとタイヤのツライチの組み合わせや、タイヤにAGILEST FASTとペダルにDura-Aceを選んでいるあたりから考えて、おそらくそれを組んだ元々のオーナーは、ガチのサイクリストと思われる。そうすると、メンテもちゃんとしていたことが期待できる。ガチのサイクリストは決して屋外保管をしない。その期待を持って当日の取引き場所の埼玉に向かった。出品者に会って話を聞いたところ、出品者は中古販売の店舗で買ったそうなので、3ホップして私のところに来たことになる。とはいえ、車体の状態は良好で、フレームに小キズがほんの少しあるくらいで、全ての機構が万全に動作するものになっていた。出品者もとても丁寧な人で、気持ちの良い取引であった。出品数時間後にたまたま見つけて早々に連絡できたのは僥倖だった。そして、かなりの掘り出し物として、待望のエンデュランスロードを獲得できた。

第一印象

入手した直後に乗り出して大宮まで40分ほど走ったが、最初の感想は「ちっさ!」だった。まるで子供用の自転車に乗ったような小ささを感じた。RFX8の450よりも全てのジオメトリが小さくなっているのだから、そう感じるのも当然だ。しかし、20分も乗っていると、すぐ慣れた。むしろ身体に馴染んで、これこそが自分に最適なジオメトリであり、今までが無理をしていたのだと感じるようになった。最新のRE8に乗ったからといって、15年前のRFX8より特段速くなるわけじゃない。エンジンである自分が同じだからだ。RP9やMadoneに私が乗っても、大して速くはならないだろう。ただ、RE8にして確実に乗りやすくなったし、おそらくだが若干速くもなっている。

受け取った車体はハンドルのコラムスペーサが既にいくつか抜いてあってハンドル位置が若干下がるようになっていたので、RFX8で若干高いと感じていたハンドルの高さがまさに適正な相対位置になった。サドル高が915mmほどで、ハンドル高が875mmほどなので、落差40mmほどということになる。それによって、私の体幹で無理のない範囲で前傾になった。自然な乗車姿勢で空力が良くなるとともに、ペダル荷重が増えることで、巡航速度の上昇と尻の負担の軽減が実現された。それでいて、過度な前傾ではないので、50km乗っても腰が痛くならない。リーチもちょうど良く、上ハンも下ハンも握りやすく、引き手をしながら踏ん張る動作もやりやすい。

フレームの空力性能が良いかどうかは、正直全然わからない。日常使いの場合、ジャケットとチノパンとか芋ジャージとかで乗るので、ライダーの空気抵抗が大きすぎて、フレームの空気抵抗の微細な違いなど判断できない。RFX8も十分良さそうなパイプ形状だが、RE8になってヘッドチューブ周りがさらに流線型っぽくなっているので、きっと良くなってはいるのだろう。しかし、フレーム以外の全ての条件を同じにして乗り比べないと分からない違いだろう。空力性能向上の一貫でありつつ美観上の効用の方が高いのが、ケーブルの内装化だ。ハンドルの中は内装ではなく、ケーブルをバーテープで隠しておいて、ハンドルステムから先が内装になるタイプだ。ハンドルステムの交換は専用品じゃないとできないが、ハンドルは汎用品が使える。これはメンテナンス性と見た目のバランスが取れていて良い。ハンドルステムの下からちらっとケーブルが見えるのがザクっぽくてむしろ格好いい。フロントフォークのキャスター角が寝ている見た目も、金田のバイクを彷彿させて良い。ただし、完全ケーブル外装のRFX8も、鉄雄っぽくて悪くないとは思っている。

クランク長が170mmから165mmに短くなったのも奏功している。下死点に合わせてBBからのサドル高を決めるので、下死点が5mm上がったせいでサドルも5mm上がった。一方で上死点は5mm下がったので、サドルと上死点の距離は10mm広がった。これにより、上死点での股関節と膝関節の角度が浅くなり、前傾姿勢を強くしても脚が動かしやすくなった。上死点を通過させる際の股関節や膝関節の負荷が明確に軽減された。私の身長や股下長から考えると明らかに165mmの方が合っていて、170mmクランクだと最後の1cmを腿上げするのに無駄なエネルギーを使っていたのだと感じる。ただし、165mmになってトルクが165/170=97%に落ちたので、その分だけ踏ん張るか、軽いギアを使ってケイデンスを上げる必要がある。ロングライドでは踏ん張ると持たないので、当然ギアを軽くすることを選択することになる。12速化のおかげでその点は全く問題ない。クランク外周長も97%に落ちているので、同じ速度(角速度ではなく移動速度)で脚を動かせばケイデンスは自然に上がる。

乗り心地は明確に良くなった。ただし、「絨毯の上を走っている」みたいな別次元の改善ではない。「今まで素手で殴られていたのがグローブで殴られるようになった」くらいの違いだ。とはいえ実用上でその違いは大きく、長野のひびだらけのアスファルトの上を走っていても、手や尻が痛くならないのは重大な効果だ。おそらく最大の要因はタイヤの種類が25Cのクリンチャーから30Cのチューブレスに変わったことだろうが、その他の要因の総合でもある。タイヤの製品がVittoria RUBINOからAGILEST FASTに変わり、ホイールがKsyrium SLSからYOELEO SAT C35に変わり、フレームのカーボン素材や構造も変わっている。

購入時にはBalugoe EC90とかいうカーボンサドルがついていたが、それはゴミだった。軽いのは分かるが、硬すぎて日常使いには厳しい。他のパーツは良いものなのにサドルだけ三流品なのが不可解だ。元々のオーナーがサドルだけは確保して代わりにありあわせのものを付けたのか、1ホップ目の中古店がサドルだけバラ売りしてありあわせの物を付けたのか知らないが、とにかく車体のコンセプトに合っていない。快適性の象徴であるサドルはレースの観点では真っ先に軽量化の対象になるが、ホビーサイクリストとしてはサドルの快適性こそ重視しないといけない。ロングライドだと脚が売り切れなくても尻が悲鳴を上げて走れなくなることがある。そこで、ブロンプトン日本一周でも活躍した手持ちのSelle SMP VT30Cに変えたところ、めっちゃ調子よくなった。幅と形が私の骨盤に合っていて、ノーズが短くなっていて脚が動かしやすい。私は結構サドルを前に出すのが好きだが、レースに出るわけじゃないのでUCIの規定遵守のためのショートサドルである必要は全くない。しかし、ノーズが短いことで、信号待ちなどで地面に立っている時にサドルが邪魔になったり、乗り降りする時にパンツの布がノーズに引っかかりにくくなったのが地味に嬉しい。尻に関しての不満はこれでほぼ無くなったが、手の振動に関しては、もうちょい減っていたらと思う。衝撃の角が取れているのでもはや痛くはないのだが、それでも大きめの衝撃だと手が滑ってハンドルから離してしまうリスクが頭によぎって、無駄に握力を使ってしまう。タイヤとフレームの歪みによるクッション程度では、RoubaixのFuture Shockのような本当のバネには敵わないだろう。

BB下がりがRFX8から15mm増えて、タイヤが25Cから30Cに5mm増えたので、タイヤ断面がほぼ円形だと仮定すると、BBハイトは10mm下がっていることになる。上述の通りBBからのサドル高は5mm増えたので、地上からのサドル高は5mm下がったことになる。また、サドルに対するハンドルの相対的な位置も10mmくらい低くなったことは、その半分の5mmくらい重心が低くなる効果があると考えられる。そうすると、総合的に重心が10mmほど下がったと考えられる。ロードバイクの乗車時の合成重心の地上高はサドルのちょっと上くらいなので、930mmとかそこらだろうが、それが10mm低くなっても1%程度の差に過ぎない。それでも、若干ながら地面に近くなっている感覚がある。直立歩行時の重心の高さを基準として自転車走行時の重心の高低を認知するという説があり、その基準高からのずれという観点で捉えると10mmの差異はそれなりに大きいことになる。理由付けはともかく、以前感じていた自転車の上に乗っかっている感覚が和らいだことは事実だ。正直なところ、もっと重心が低い方が良いと思っているが、これ以上はオーダーメイドしないと下げられないだろう。逆に、BB下がりが小さいのを選ばないで良かったと強く思う。

ホイールベースとトレールとBB下がりが全て直進安定性に振られていることで、下りの安定感が顕著に増している。軽井沢から東御まで18号線の下り坂を爆走しても、全く不安がない。タイヤが太くなったおかげて足回りが安定しているというのもあるが、それとは別に舵角や重心を調整する周波数が明確に大きくなっているので、心に余裕が出る。今まではちょっと速度が出ると落車が頭によぎってダウンヒルが楽しめなかったが、これからはもっと攻めた走りができる。それに加えて、ちょっと余所見をしても車体がふらつくことがなくなったため、旅などで景色を楽しみながら走るのに都合が良さそうだ。小回りはしづらくなったが、田舎に住んでいる限りはそれは全く問題にならない。若干ながら曲がりづらくなった分、逆操舵できっかけを作りつつ意識的に体重をかけてライン取りする必要がある。オートバイっぽい乗り味に近づいていて私は好きだ。キャンバー角がつくほどにグイッと内側に押される感じがたまらない。むしろ、逆操舵とセルフステアとキャンバースラストにこそ二輪の浪漫が詰まっていると言いたい。

RP8とRE8の公式記事によると、RP8のフレーム剛性はRP9比で90%で、RE8のフレーム剛性はRP8比で85%だそうなので、RE8とRP9の比は76.5%ということになる。よって、同じトルクをかけるとRE8はRP9の1.3倍のたわみが発生し、RE8だとRP9の0.765倍のトルクで同じたわみが発生することになる。つまり、RP9に乗って「踏んだだけ進む」と評するガチ勢のレビューが妥当だとすると、その0.765倍未満のトルクしか出さないだろう私がRE8に乗るなら「踏んだだけ進む」と評したレビューを書いても良いことになる。実際のところ、フレームが歪むほどの大トルクをかけた乗り方をしないので、RFX8でもRE8でも何も違和感がなく乗れている。登坂の際にダンシングで強めに踏み込んだ際には、確かにちょっぴりバネ感がある気もするが、「踏んでも進まない」と感じるわけでは全く無い。むしろ膝を痛めにくくて良いとすら思う。おそらく、普通の人が普通に漕いで何も違和感が生じないように構造設計するのも難しいのだろうが、それがちゃんとできていることこそ称賛されるべきだ。

ガチ勢がどれくらいトルクを出しているのか考えてみよう。トップクラスの選手のゴール前スプリントで1500Wで115rpmというところだろうか。その際のペダルスムーズネスは20%としよう。そうするとクランク全周平均トルクは124.55Nm(1500W / (115rpm / 60s * 2π)であり、20%で割ったピークトルクは622.78Nmになる。RP9がそれで力が逃げないように作られているなら、RE8はその0.765倍の476.42Nmで力が逃げないことになる。この計算はフェルミ推定レベルの雑さだが、ともかく競技レベルの要求水準が非常に高く、それよりちょっと劣っているというのが実用上何ら問題ないというのは分かる。

さて、素人の街乗りやロングライドにおいても、急坂で気合を入れて漕げば300Wでケイデンス80rpmくらいにはなる。急坂ではペダルスムーズネスが上がるので30%としよう。その場合、クランク全周平均35.80Nm(300W / (80rpm / 60s * 2π)であり、30%で割ったピークトルクは119.36Nmになる。それでも、RE8で力の逃げを感じることはない。フックの法則によると応力と歪みは比例関係にあるわけだが、476.42Nmのトルクを掛けて変形が問題ない構造物に119.36Nmのトルクをかけても当然問題ないはずだ。また、ケイデンスが低ければ、角速度も低くなるので、弾性エネルギーが回収されるまでの角度差は減る。要は、素人はフレームの剛性不足を感じられるほど大きいパワーを出さない(出せない)という話に集約される。高トルク低ケイデンスの場合はフレームが歪んだとしても復元するまでの位相差が小さく、パワーゾーンの中でトルクがかかっているうちに弾性エネルギーを回収できる。そして、低トルク高ケイデンスの場合はそもそも歪みが小さい。よって、パワーがガチ勢よりも低いエンジョイ勢は、どんな漕ぎ方をしても、力が逃げる感覚が発生しない。エンジョイ勢がフレームの剛性に文句を付けている場合のほぼ100%は、自分の脚力がないことの責任転嫁だろう。

ところで、体重65kgの人が165mmのクランクアームに全荷重をかけると、105Nm(65kg * 9.8m/s2 * 0.165m)の最大トルクが発生する。それに比べると、上述した119.36Nmというトルクは大きい。300Wで80rpmというのは私も普通に出すことがあるが、体重以上のトルクをかけているのに、反作用で身体が浮き上がることはない。ハンドルを引くことで反作用を受け止めているのと、車体が前に進むことでペダルからの反作用が減るのと、そして車体全体の弾性エネルギーに力が変換されるのが原因として上げられる。ピークトルクはほんの一瞬のスパイクだが、車体の速度が急に上がるわけじゃない。その一瞬で使われなかった力はどこかに蓄えられる必要があるわけだが、身体が浮けば位置エネルギーになるし、骨や肉が撓むことで弾性エネルギーになるし、そして車体(クランク、フレーム、ホイールなどの総体)が撓むことで弾性エネルギーになる。そう考えると、身体が浮いたり撓んだりするよりは、適度に車体が撓む方が効率が良さそうな気がしないだろうか。シッティングで漕いでいても車体の撓みを体感することはあまりないが、おそらく全ての状況で車体の微細な撓みによる恩恵を受けているのだ。

コンポの進化は、絶大だ。RFX8の機械式アルテグラR8000は高級コンポだが、15年の進化は、下位グレードである105を持ってしても異次元の利便性をもたらしている。まず、油圧ディスクブレーキが、めちゃくちゃ利く。パスカルの原理ってば凄いと思った。ブレーキの最大制動力は路面とタイヤの摩擦力で決まるので、ブレーキの機構の良し悪しとは関係ない。また、高速走行時に最大制動力を発揮すると実際は前転してしまうので、最大制動力が高いことの意味はない。しかし、握りの軽さが全然違う。RFX8では自宅から市街地まで4km下ると握力が低下してくるくらい疲れていたが、油圧ディスクブレーキだと薬指でちょっと引くだけで利くので、めちゃくちゃ快適になった。利き方が握りの強さに大して線形に感じるのも良い。つまり、握った分だけ利く感じだ。リムブレーキだと弱めに握ると全然利かないし強めに握ると一気に利くのでブレーキロックしやすかったが、ディスクブレーキだと制動力を調整しやすいので、手動ABSのようなことができる。激しくブレーキロックするとタイヤの寿命を著しく縮めるので、長い目で見るとタイヤ費用の節約分でディスクブレーキの初期費用とメンテ費用が賄えるかもしれない。そして、雨の日でも利き方がほとんど変わらないのもいい。これを知ってしまうと、確かにリムブレーキには戻れなくなると思った。

そして、Di2。これまたすごい進化である。勝手にフロント変速をするシンクロモードは気持ち悪いだろうと思っていたが、実際に使ってみると、30分で慣れて、全く違和感がなくなるのがすごい。今まではフロント変速が面倒くさいからギアを変えないで踏ん張ってしまうということがよくあったが、シンクロモードにするとその観念が消滅する。これからはケイデンスの管理をちゃんとしようと思えるくらい変速が楽で気軽になった。そもそもDi2モデルに固執していたのはO.Symetricを導入するためだったが、それはまだ試していない。まずは普通に真円チェーンリングでRE8の素の乗り味を楽しもうと思っている。

フロントのチェーンリングは変わらず50-34Tだが、リアのスプロケットが11-34T(11, 12, 13, 14, 15, 17, 19, 21, 24, 27, 30, 34)になった。シマノの12速スプロケットでは最も標準的な構成だが、これは良いものだ。RFX8では11-28T(11, 12, 13, 14, 15, 17, 19, 21, 23, 25, 28)だったので、トップ側の8枚は変わらずで、平地巡航時の使用感を維持しつつ、ロー側が34Tまで伸びることで登坂性能が劇的に上がったことになる。従来の34/28=1.21の変速比でも大抵の峠で問題なかったが、34/34=1.0まで下げられると安心感が違う。実際には1速の34Tはよほどの激坂じゃないと使わないし、なくても適宜ダンシングすれば登れる峠がほとんどだが、「登れない峠はない」という保証があるとルート選択が気楽にできるようになる。

RE8のインナー2速(34T/30T=1.13)とRFX8のインナー1速(1.21)の重さはだいたい一緒に感じる。クランク長が短くなったのとタイヤ外形が増えたのが影響している。クランクが短くなったことでトルクが165/170=0.9705倍になり、タイヤ外形が(622.0+30*2)/(622+25*2)=1.0148になって仕事量が相応に上がったので、体感する重さが1.0148/0.9705=1.0456倍になる。1.13*1.04566=1.1815であり、1.21とかなり近い値になる。よって、RFX8でリア28Tを使っていた坂ではRE8で30Tを使うと丁度いい感じになる。同じ理屈で、トップの11Tも以前より1.0456倍重く感じるので、トップを使う頻度は減った。トップを使うのは下り坂でトルクをかけたい気分になった時だけだ。トップ側とロー側の両方に余剰があるのは良いことだ。

12速化にはトップのチェーンラインが異常に斜めになるという弊害がある。トップで走るような高速域では空気抵抗の方が圧倒的に大きいので、機械抵抗がちょっと増えたところで問題ないという話ではあるが、単に気になるのだ。私はたまにSFR(slow frequency revolution)トレーニング的な走り方をするので、その時にギアやチェーンが痛みそうで心配になる。なので、SFR的な気分の時でも、トップはなるべく使わないで11速で運用している。O.Symetricの52Tを導入するとトップが重すぎて踏み切れないことがさらに増えるだろうから、ちょうどよいとも言えるが。

ホイールのYOELEO SAT C35が、かなり良い仕事をしている気がする。軽いので発進や登坂のもたつきが一切無く、ハブの転がりもよいのか、低速時の快適さもKsyrium SLSに引けを取らない。重量が135g軽くなっているわけだが、回転体なので慣性力が2倍の270g重くらい減るので、それだけ加速しやすくなっているということだ(実際には外周に質量が集まっているわけじゃないので具体的数値は怪しい)。セミディープホイールになったおかげか、30km/hを越えたくらいから、以前より若干ながら速度の伸びが良い気がする。平地で路面が良ければ、そんなに頑張らなくても40km/hに到達できる。ロードノイズがリム内で反響して起こる「コー」という音がなかなか心地よい。タイヤとリムをツライチにするのはリムハイトを数ミリ増やすのと同じくらい効果的と言われるが、その恩恵に預かっているのもありそうだ。速度の伸びは乗車姿勢が低まったのとも相まっていてホイールの貢献度を切り分けるのは難しいが、1/3くらい貢献しているような気さえする仕事ぶりだ。35mmハイトというのは登坂性能を下げずに平地巡航速度を上げるという目的に適している。35mmハイトでも横風に煽られるが、ちょっとビビる程度で済んでいる。逆に言えば35mm程度が限界で、50mmとかは使いたくないと思った。スポークがアルミからステンレスに変わったことで振動吸収性も上がっているはずだが、それについてはタイヤが太くなった効果に隠れて判定できない。性能に文句はないのだが、空走時のラチェット音がうるさいのと、フリーハブの遊びが大きすぎて空走後に漕ぎ出した時のかかりが遅れるのが玉に瑕だ。

タイヤもとても良い感じだ。空気圧が低いと、低速かつ路面がよい場所ではタイヤの潰れによるヒステリシスロスを感じやすいはずだが、カチカチにした25Cの時と変わらない。アスファルトの粒感を感じないのに車体が進んでいくのが新鮮だ。そして、高速かつ路面が悪い場所で感じるはずのインピーダンスロスは、顕著に減った。タイヤが溝を埋めて畝を包んでくれる感覚がある。とはいえ、太さが違うこととチューブレス化による違いが大きすぎて、AGILEST FASTだから良いのかどうかは全く分からない。グリップに関しては明確に良くなっていて、荒れた路面でもしっかり食いついてくれるし、油圧ブレーキで急激に制動してもブレーキロックしづらい。そこそこ低圧で運用しても旋回時にへたるような不安感はなく、安心して車体を倒し込むことができる。チューブレスに始めて乗ったが、こんなに心地よいものだとは思わなかった。チューブレスのシーラント液が抵抗になるという話もあるが、現実的な走行速度では遠心力でタイヤ内壁に張り付くので液体の移動による粘性抵抗はなくなり、その状態の粘性抵抗はチューブの摩擦抵抗よりも低いはずだ。実際の乗車感としても全く抵抗を感じない。ただし、AGILEST FASTはレース用のタイヤなので、おそらく寿命は短い。あと3000kmくらいのボーナス期間と思って堪能しよう。

登坂性能は、RFX8から若干劣化した。登坂時の抵抗の多くは登坂抵抗が占め、登坂抵抗は重量で決まる。RFX8のフレーム重量(1000g)とRE8のフレーム重量(1010g)はほぼ同じで、ホイールの重量は135g軽くなっているが、コンポの違いとディスクブレーキ化によって総重量は重くなる。ペダル等込み込みで実測したところ、RFX8は7.9kgで、RE8は8.4kgだ。平地巡航時には気にならない差だが、勾配5%以上の登りになると若干ではあるが明確に重くなっているのを感じる。とはいえ、路面抵抗の低下と推進力の増加によって相殺されている部分もある。帰宅する際には勾配8%の農道を数キロ登るのだが、数多の亀裂や雑草を乗り越えることになる。障害物に当たる度に速度が失われるだけではなく衝撃で筋肉が強張ったり脳が揺れたりして疲労が溜まるので、それが緩和されたのは嬉しい。さらに、ジオメトリの改善による推進力増加の効果がある。前傾度合いが若干増して、ペダル荷重も若干増したことは、シッティングでの登坂でも有利に働く。また、リーチが短くなったことで、以前より脇を締めて肘を若干畳んだ姿勢になるため、一瞬ケイデンスが下がった時に強く踏ん張るのが楽になった。とはいえ、頑張ることで得られる推進力は長続きしない。よって、インナー2速や1速を躊躇なく出してゆっくり登ることになる。

車体の見た目は、なかなか気に入っている。まず、フォレストカーキなる配色が良い。未だ中二病の癒えぬ私はミリタリーカラーが結構好きなので、もうちょいフィールドグレーやオリーブドラブっぽくして銀輪部隊を気取れるようにしてくれても良かったとは思いつつ、侘び寂びのある自然な配色もなかなか良い。明るい色の部分は、各色の水彩塗料を混ぜた末にできる緑がかった灰色で、悪く言えば綾瀬川の水面のような濁った色だ。色に全く特徴がないお陰でホイールやサドルやその他のパーツの黒とも良く調和している。どんな服装で乗っても違和感がないだろう。総合的に見て、無駄な主張がなくてとても美しいと私は感じる。ザクがガンダムに、VTR250がパニガーレに、プロボックスがテスタロッサに張り合っていたら、そりゃ前者を応援するでしょう。UCIのロゴが防犯登録シールみたいでダサいが、そこには適当なステッカーを張ることにしよう。あと、この配色はブランドロゴが目立たないのが良い。「Specialized!!」「Trek!!」(He's invested!!)(Steal me!!)みたいなブランド主張はしなくていいよと常々思っていたが、その声をまさに拾ってくれていることに好感が持てる。そこそこの値段な割には、高そうに見えないので、盗まれたりイタズラされたりしづらそうなのも良い。そして、アラフィフのオッサンが地味な車体に乗っていても意外に速いという事実を成立させることが、私の中二病の掻痒感を癒やすのだ。実際のところガチ勢には全く歯が立たないけども。

輪行の際の分解と組み立ては、ディスクブレーキになったことで若干面倒くさくなった。車体を逆さにしてから、アウターローにギアを合わせて、全後輪を外して、ゴムバンドで適当にくくりつけて、輪行袋で包むという手順は、リムブレーキの時と同じだ。輪行袋もPekoのお手製輪行袋がそのまま使える。スルーアクスルをフロントフォークとリアトライアングルのつっかえ棒として残せるので、専用のつっかえ棒を用意しなくてもそれらが破損しにくくなった。ただし、いくつか追加の手順と道具が必要になる。ディスクブレーキのローターをむき出して収納すると傷つくので、カバーを掛ける必要がある。そのために「R250 スプロケット&ローターカバー 42t対応 ブルー 2枚セット」を1012円で買った。ブレーキローターを外した状態でキャリパーが動くと戻らなくなる事故の対策としてスペーサを挟む必要があるが、それは「OSTRICHダミーローター2個セット」を500円で買った。念の為、OSTRICHのスプロケカバーも買った。分解作業の初回は戸惑ったが、慣れれば作業時間はリムブレーキとクイックリリースの組み合わせの時と2分くらいしか変わらないとは思う。

補足

新しいRE8に初めて乗ってしばらくは小さいと感じて、20分で慣れたと書いた。そこで思ったのは、人間の感覚は意外と当てにならないということだ。適正でないジオメトリに慣れてしまった身体は、適正なジオメトリの車体に乗った場合に、しばらくは違和感を感じてしまう。よって、新しい自転車を試乗して決めるにしても、事前にジオメトリを考察しておいて、どのような感覚を抱くかを想定しておくことが有用だろう。第一印象で「小さい」「大きい」「低い」「高い」と感じたとしても、実はそれが自分の身体に合っているかもしれないし、そうでないかもしれない。できれば30分とか乗ってみて、旋回や加速や高速巡航や上り下りの感覚を一通り確かめてから決めたいところだ。自分が試乗もせずに決めたのはかなり賭博的だったが、旧車体での違和感をきちんと言語化した上で、各モデルのジオメトリを調査研究したことが、成功を導いたと言えよう。そして、初めてロードバイクに乗るなら、いきなり最新の高級品を買うのではなく、型落ちや中古の廉価品を買った方がよさそうだ。それにしばらく乗ってみて、そもそもロードバイクが自分の性格と生活様式に合うか見極めた上で、欲が出てきたなら、より良いモデルに乗り換えればいい。基準がないと良し悪しの判定ができないし、一定の知識がないと適切な購入戦略も立てられない。

適正空気圧はSRAMの空気圧計算ページを参考にして決めている。買い物で荷物を背負うことを考えると、体重65kgにバイク重量15kgを足した80kgを乗車重量にしている。内幅15mmのKsyrium SLSにチューブと25Cタイヤの組み合わせだと、フロント84.3psi、リア89.7psiが適正空気圧となる。内幅15mmに25Cをつけるとタイヤ断面が電球型になってサイドウォールが斜めになって剛性が下がるので、空気抜けを考えると95psiくらいは入れておかないと安心できない。高速旋回中にタイヤが腰砕けすると本当に怖い思いをするからだ。一方、内幅23mmのSAT C35にチューブレスと30Cタイヤの組み合わせだと、フロント56.9psi、リア60.5psiが適正空気圧となる。チューブレス化するとリム打ちパンクのリスクがなくなるので、路面抵抗だけに最適化した空気圧に設定できることになる。内幅に余裕があるとサイドウォールが垂直に立ち上がるので剛性も高まり、低圧でもコシ砕けしづらい。適正空気圧を入れておいて、ちょっと空気抜けした時ぐらいが最適な乗り味になる。チューブレスだと二日置きには空気を入れなきゃならないと言われるが、実際のところ週1回でも十分だ。外での緊急修理以外でTPUチューブを使う理由は無い。

次に買うタイヤはおそらく32Cにするだろう。内幅23mm外幅32mmのワイドリムであっても、32Cのタイヤを付けて実測34mmくらいになると、もはやツライチとは呼べなくなるが、高速走行性能よりも25km/hくらいでの快適性の方が重要だ。断面が電球型になるほどでもないので、旋回時の剛性の問題もないだろう。よって、空力性能や剛性を大きく損なわない範囲で衝撃吸収性と不整地走破性が高められると期待できる。外径が増えるとトレール量も増えるので、直進安定性も増す。リムの保護の観点でもタイヤが1mmほど外に出ている方が安心だ。32Cに変えると、適正空気圧はフロント52.2psi、リア55.6psiになる。

現状で、サドル高とハンドル高の落差が40mmの設定にしている。コラムスペーサがあと10mm残っているので、それを抜けば落差50mmにできるが、それは控えて40mmのままで運用する。ハンドル落差が大きい方が玄人っぽくて格好良いという風潮もあるが、それを抜きにしても、純粋に速いのはハンドル落差が大きい設定だ。ロングライドにおいても、体幹が許す限りは低い体勢で乗って空気抵抗を減らして脚力を温存できる方がいい。適切なハンドル落差の目安としては、レースなら7cm以上だとか、脱初心者が5cm以上だとか、身長や股下や袖丈の何%だとか、柔軟性で決めるとか、いろんな節があってどれも信用ならない。7cmはRFX8で試したことがあるが、首が痛くなってしまう。背中や腰は我慢できるのだが、前を見るために首だけ上げるのが厳しい。頭を上げずに目線だけ前に向けると、眼輪筋やら前頭筋やらが引きつって気持ち悪くなってくる。前はチラ見だけにして下ばっかり見て走ることも可能ではあるが、それでは楽しくない。つまり、ハンドル落差の大きいポジションで走行性能を追求すると、景色が楽しめないのだ。レースではないなら、たとえ速く走れても、道中が楽しくなければ意味がない。一方、落差40mmくらいだと、上ハンを握れば前方180度の範囲の好きな方向の景色が楽しめて、ガシガシ漕ぎたい時に下ハンを握っても前方60度の範囲くらいは普通に見られる。私が考えたハンドル落差の目安は、ロングライドをしてみて、上ハンを握りたくなる時間と下ハンを握りたくなる時間が半々くらいになるというものだ。現状でそうなっている。その設定が自分にとって最適であるという確信が持てると、サドルがビヨーンと伸びていないのがむしろ格好良く見えてくるのが不思議なものだ。

トップチューブがスロープしている方が、停止時に立った時の足つきが良い、という美点を上げる人がいるが、それはあんまり意味がない。停止時にはハンドルの近くに股間が来るのが自然な姿勢であり、トップチューブ前端の高さが股下よりも低くないと、股間をぶつけてしまうリスクがある。サドルの近くにだけ立つように気をつける手もあるが、そうするとサドルが背中に当たったり、パンツに引っかかったりして不快な思いをする。トップチューブ前端の地上高は、タイヤ半径からBB下がりを引いてスタックハイトを足すことで求められる。今回の場合、341 - 80 + 425 = 686mmだ。私の股下長740mmよりは56mm低い。実際には脚を左右に開いて立つので、靴による嵩上げを考えたとしても、股下長より数センチ低い方が安心だ。

スローピングによってシートポストが長くなることで衝撃吸収性を上げる効果もあると言われている。ただし、RE8の105 Di2モデルまでは、あんまり歪まないアルミ製なので、シートポストが良い仕事をしている風には見えない。衝撃吸収製が売りのカーボンシートポストはUltegraモデルからだ。27.2mm径の汎用シートポストが使えるので、いずれカーボン製に換装しようかと思っている。私の股下長と好みからすると、長さが300mmから350mmで、セットバックが小さい物が良い。ところで、トップチューブ前端の地上高は、可能なハンドル落差の目安にもなる。トップチューブ前端の地上高と股下の差が、コラムスペーサを全て抜いた時のハンドル落差に近い値になる。よって、ハンドル落差という観点で車種を選択する場合、トップチューブ前端の地上高をリストアップしておくと検討しやすくなるだろう。

私は普段はビンディングペダルではなく、フラットペダルにハーフのトウクリップをつけて使っている。ビンディングペダルの方が強い引足を使えることは間違いないが、ロングライドでは強い引足を使うと持たない。ハーフクリップは、引足で正のトルクを生むというよりは、負のトルクをゼロにしてもペダルが足から浮かないようにする役割を持つ。そして、負のトルクをゼロにする程度の引足をすることこそが、最もエネルギー効率が良いペダリングになる。引足で使う筋肉は歩行時に脚を前に出す筋肉と同じなので、弱い力を継続的に出すのは得意だ。実際、歩行時と疲れが変わらないどころか、座っている分だけむしろ楽だ。プラスチックや細い針金でできたハーフクリップではなく、鋼板ハーフクリップを使うと、引足でそれなりの正のトルクも入力できるようになる。激坂や追い越し等で一時的に強いパワーが必要になった場合にもある程度は対応できる。私の場合、鋼板ハーフクリップが最大0.5mm歪む程度を引足をするとゼロトルクの引足になることがパワーメータで確認できているので、普段はパワーメータをつけずにゼロトルクの引足を実践している。

ゼロトルクの引足のパワーを計算してみよう。片足の重さは体重の15%と言われるから、65kgの人の片足は9.75kgで、靴を350gとすると、10.1kgということにしよう。クランク長165mmとして、下死点から上死点まで持ち上げるので、垂直移動距離は330mmだ。しかし、股関節の付け根は固定されているので、重心移動はそのざっくり半分の165mmということにしよう。クランクを1周させると右足と左脚を1回ずつ持ち上げる。それをケイデンス70rpmで行うとする。10.1kgの物体を0.165m持ち上げる動作2回70セットを60秒で行うので、10.1 * 9.8 * 0.165 * 2 * 70 / 60 = 38.1だ。ゼロトルクの引足だけをして一切の踏み込みをしなくても、38.1Wのパワーが出ていることになる。引き上げて上死点を過ぎた脚は、何の力を入れなくても、その重量でペダルを押し下げてくれる。平地の舗装路で無風なら、それだけで18km/h以上で走れるパワーだ。ケイデンスに比例してこのパワーは増大する。80rpmなら43.5W、90rpmで48.9W、100rpmで54.4Wだ。この計算もフェルミ推定レベル雑さだが、脚の重さが馬鹿にならないことは分かる。ゼロトルクの引足だけで40Wとかの貢献をしているのだから、それ以上無理に頑張らなくてもいいだろう。

重要なことなので繰り返すが、40Wとかのパワーは、無料のエネルギーではない。引き脚が内部仕事として位置エネルギーを蓄えて、それが踏み脚の外部仕事として計上されるということだ。ゼロトルクの引き脚はパワーメーターにはゼロパワーとして計上されるが、内部仕事はしている。そして、機械ではない人間がほぼゼロトルクの引き足をするには、実際には微妙にマイナスだったりプラスだったりする引き足をすることになるので、足をペダルに固定する必要がある。一方で、微妙なプラストルクしか起こさないのであれば、足とペダルの固定力は弱くても問題ない。ならば、ハーフクリップで十分であろうというのが、主張の要点だ。

RFX8でも使っていたMKSアーバンプラットフォームに滑り止めのスパイクと鋼板ハーフクリップをつけた改造ペダルをRE8に付け替えて乗っているが、これが全く調子が良い。脱力してヌルヌルと漕いでいるだけで、平地では意外なほど速度が出るし、大抵の上り坂は適度な引足を意識するだけで息を切らさずに登れる。そして、ハーフクリップなら絶対に立ち転けしない。立ち転けの屈辱感は数日間自転車に乗るのを躊躇わせる程度に強い。そして、中古とはいえ新しい機材を早々に傷つけたくはない。立ち転けしないと分かっていると、激坂で不意にケイデンスが落ちても、焦ってクリップを外して停車せずに、低いケイデンスのまま粘ってギアを軽くするなどの操作で立て直しが図れる。そして、停車と再発進の所作がとにかく楽なので、信号が多い街中でも苛つかずに済む。とはいえ、RFX8用にビンディングシューズも持っているし、Dura-Aceペダルも付いてきたことなので、気が向いて地蔵峠アタックでもしたくなった時には使ってみよう。ビンディングシューズを履いて、下死点直前から踵を斜め後ろにグイッと引き上げる感じの引足をした時の、意外に大きい加速感は快楽をもたらす。信号で止まった時に腓腹筋が逆ハート型に浮き出ているサイクリストを見かけると、こいつには勝てないなと即座に認識してしまう。フラペとSPD-SLの間を取ってSPDという手もあるが、良くも悪くも間を取った存在なので、悩ましいところだ。

ロングライドで追求すべきはパワーメータが示すペダリング効率ではなく、生理的なエネルギー効率だ。パワーメータは引足区間の負のトルクを負の仕事として計上するが、実際には脚を持ち上げて位置エネルギーを作る仕事をしている。生理的な運動を測定するなら、脚にかかる重力やら慣性力やらを加味するべきだが、現状のパワーメータの仕組みでは難しいし、ソフトウェア的に実現してもモデルが複雑になりすぎて指標としての使い勝手が悪くなってしまうだろう。ゆえに、パワーメータがクランクやペダルの歪みを測る装置に徹しているのは合理的だ。パワーメータが出してくる全周平均トルクとそれに由来するパワーには運動負荷を測る上で意味がある。しかし、クランク角度毎の集計に由来するペダリング効率やトルク効率はあんまり意味がない。引足区間で負のトルクをゼロに近づけるのが良いというのは単なる経験則に過ぎず、多少負のトルクが出ていても、正のトルクが出ていても、問題ない。筋肉と相談しながら引足の強さを調整すればいい。同様に、上死点や下死点での踏力が下方向の成分を持っていても、それが10kg重未満なのであれば、生理的な効率を悪化させているとは限らないので、気にしなくて良い(慣性力を考えると話は複雑になるだろうが)。

ソールが固くて滑りにくいフラットペダル用サイクリングシューズを履くと、踏み込みの効率も良くなる。また、ソールとアッパーの爪先部分が反らない構造になっているものは、ハーフクリップでの引足の効率も良くする。私はChromeのKursk TRを愛用している。こいつはサイクリングシューズでありながら歩行やトレッキングにも全く支障がないので、この2年くらいは日常生活でもそればっかり履いている。しかも靴底があまり減らないので、このペースで履いていてもあと3年くらいは持ちそうだ。ビンディングシューズだと歩行に支障が出るので旅の途中で寄り道しなくなる傾向があるが、走行のみを動機づけにすると燃え尽きるのも早い。自転車は世界を広げる道具であるべきだ。フラペとハーフクリップの運用はひとつの手段に過ぎないが、身体的負荷と精神的負荷を下げて気軽にたくさん乗ることこそが、走力を上げると信じる。

余談になるが、「体重をペダルに乗せる」というよくある表現に私は違和感を覚えている。体重に仕事をさせるには体全体の位置エネルギーを減少させる必要があるが、ペダリングの踏み込みの際に減少する位置エネルギーは片脚の股関節から下の部分の質量に由来するものだけであり、上半身の位置エネルギーは関わっていない。片脚の位置エネルギー以外でペダルを動かしているのは、あくまで脚の各関節を動かしている筋肉に由来する力であって、体重がペダルを動かしているわけじゃない。関節の運動によって発生した力のうちで自転車の加速や熱損失として消費されなかった分の反作用を受け止めて尻から上が浮かないようにするのには尻から上の重量が必要になるが、それが大きければパワーが上がるという話にはならない。リカンベントバイクだって十分にパワーを出せるのがその証左だ。あくまで筋肉が動かしやすい体勢を取ることがペダリングに重要なのであって、物理的におかしい比喩的な説明が実際に何を意味しているのかは慎重に考えるべきだろう。例えば、クランク角3時の位置で踏力が増すのは、股関節を動かす筋肉が収縮しやすい長さになっているのと、脚の自重が踏力に加算させるからだ。適切なケイデンスでトルクとそれに伴う反作用を調整している限りにおいて、踏み足の側に重心を動かす必要もない。

軽いカーボンホイールを導入したことで楽に走れるようになったと私は感じている。ところで、「いったん加速すれば重いホイールの方が速度の維持が楽」という通説がある。速度は抵抗と均衡し、重い方が路面抵抗が上がるので、重い方が楽になるというのがどうも腑に落ちない。ホイールが重い方が慣性力が高いのでパワーゾーンとリカバリゾーンの角速度の差が減るのは事実だろうが、パワーゾーンで加速して全体の速度を維持するための必要パワーが増すので、慣性力の増大による収支はゼロだ。よって、軽い方が速度の維持に必要なパワーが低いことは確実だ。それにも関わらず重いホイールが楽だと感じるとしたら、おそらく角速度の変動が小さくなることによる生理学的な効率向上があるのだろう。角速度の変動が大きいと筋肉の収縮速度の変動も大きくなる。パワーゾーンの踏み始めでは重くて多くの踏力がかかるが、踏み終わりでは軽くなって踏力がかからなくなる。そして収縮速度が速い状態でパワーゾーンから抜けて急に収縮を止めなければならない。ケイデンスが上がるほどそれは難しくなってくるだろう。そのスキルがある人には全く苦ではない動作なのだろうが、重いホイールに慣れた人が軽いホイールに乗り換えると難易度が上がるというのは合点がいく。そこで思うのが、角速度の変動を抑える楕円チェーンリングはやはりペダリングスキルを補う上で効果的だろうということだ。楕円を導入できるDi2を導入しておいて良かった。

荷物積載性を上げるための追加のダボ穴はRE8には一切ついていない。ダウンチューブとシートチューブにドリンクホルダ用のダボ穴があるだけという最低限の構成だ。RE8のEはEnduranceではなくExtendということになっているらしく、積載性より空力を重視しているっぽい。とはいえ、トップチューブバッグもフレームバッグもベルクロ固定方式のものを選べば良い。ダウンチューブ下にツール缶などを置く場合も、TOPEAK VERSAMOUNTみたいなのを使うか、ドリンクホルダをタイラップで直接固定すればよい。リアキャリアも10kg未満の積載ならシートポスト固定式でよいし、Tailfinみたいにスルーアクスル共締め方式を選べばパニアバッグすらつけられるようになる。とはいえ、自転車キャンプする用途にはRE8は明らかに向いていない。軽量で空力の良いカーボンロードバイクに重くて嵩張る荷物を積んだら美点が台無しだ。野営を含む自転車旅をするならエンデュランスロードではなくランドナーを買うべきだろう。一方で、野営をしないでホテルやゲストハウスや漫画喫茶に泊まると割り切るなら、大物はサドルバッグ、小物はトップチューブバッグに入れるだけで、厳冬期以外の自転車旅は問題ない。暖かい時期や地域ならば、ウルトラライト寝袋とインフレータブルマットと蚊取り線香だけ持ち運べば公園の東屋や適当な橋の下で眠ることも可能だ。その組み合わせだとフロントバッグやパニアに比べて空力がだいぶマシなので、ロードバイクらしい軽快な走りで旅が続けられる。野営をしない代わりに機動力を1日250kmとかに上げられるので、ホップ先の街の選択肢も広くなり、日程の制約の中でも広範囲を回れるようになる。

ここまでRE8やエンデュランスロードの美点についてひたすら述べたが、コンペティティブロードが駄目だとは思っていない。走行性能が高いことは良いことだ。レースは機材展示会でもあるので、コンペティティブロードに派手なロゴがついているのも当然のことだ。たとえレースに出なくても、同じ脚力の人が綺麗な舗装路の比較的短距離のコースを走るなら、コンペティティブロードの方が若干速く走れて気持ちがいいだろう。そして、コンペティティブロードをベースにして快適性を付与していくカスタイマイズも可能だ。気分やコースに応じて、タイヤを太くしたりフラペをつけたりする選択肢もある。腰が痛いと思ったら、コラムスペーサを入れるなりハンドルステムを替えるなりしてハンドル位置を上げればいい。BBハイトを低くするのだけはできないが、そこが気になる人はそんなに多くないだろう。個々人の自転車道に正解はないし、何かに最適化する必要もない。ジオメトリのちょっとした違いなんて、慣れればそれが普通になるだけだ。じゃあRFX8をカスタマイズすれば良かったじゃないかという話にもなるのだが、コンペティティブロードが駄目だから乗り換えたわけじゃない。RFX8は太いタイヤが履けないし、ディスクブレーキもつけられない。そして、ジオメトリが私の身体に合っていなかったというのが最大の理由だ。わざわざ乗り換えるのであれば、レースに出ないという前提を置いた際に効用を最大化できるエンデュランスロードを選んだ。そして、条件の合った3車種の市場を監視する中で、たまたま掘り出し物が出ていたRE8に着地したという話だ。

RE8は本体だけで定価50万円近いわけだが、そんな高級品を短時間でもコンビニやスーパーの前に置いても大丈夫なのか。現実的には生活の足として使っているので置かざるを得ないが、盗難リスクは高い自転車に乗る際の最大の欠点のひとつだ。もちろんチェーン鍵で構造物に括り付けるようにはしているのだが、両手式のボルトクリッパーの前には大抵のチェーン鍵は無力だ。かといって、重量が800gとかあるブレードロックを持ち歩くのは、軽量なフレームやホイールの利点を台無しにしてしまう。盗難に対する最大の防御は高い自転車に乗らないことだが、もう買ってしまったし、そもそも要求仕様を満たす中でこれより安いものはない。とりあえず、現状での防犯対策は次のものだ。家では当然屋内保管する。行き付けのスーパーでは警備員が居る入口近くに停める。その他、外食や買い物の際には、そこそこ人の目があるが大通りからは見えにくそうなところに停める。ホテルや快活クラブに泊まる際は輪行状態で持ち込む。そして、長時間駐車が必要そうな時はRFX8を使い、都会に行くときはブロンプトンを携帯する。

今回の取引では、私は市場価格よりも大幅に安く製品を手に入れ、出品者も相応の利益を出していると考えられるので、いわばWin-Winの関係が成立している。出品者が製品を購入した店も当然利益を出しているだろう。となると、負けているのはその店に買い叩かれた元々のオーナーということだろうか。ざっくりと、出品者の利益が6万円、出品者に売った店舗が6万円の利益を出すとすると、元々のオーナーは23万円とかでRE8を手放していることになる。RE8 105 Di2モデルの買取相場を見ると最高26万円くらいなので、中華カーボンホールが買い叩かれて、中古のタイヤとペダルの価値が0とみなされて、フレームに多少の傷がある分で値引きされると、23万円くらいで着地するのは理解できる。盗難車じゃないと説明がつかないというほど変な話ではない。しかし、元々のオーナーがヤフオクやらメルカリやらジモティーで出品していれば40万円とかで売れただろう。だが、彼はそうしなかった。情弱で負けているという見方もできるが、わざわざ個人間取引で手間をかけるのが割に合わないほど稼いでいる人なのかもしれない。3ホップ先のことを私が知る由もないが、自転車に70万円以上を投資できてツライチのリムとタイヤを組んでくる人が情弱ってこともそうそうないだろう。彼が時間を買っていると考えれば、誰も負けている人は居ないことになる。

カルドア・ヒックス基準による資源配分の効率性の観点では、価値を最も高く評価できる人に財が行き着くべきで、途中の損得はどうでもいい。今回の構成だと50万円くらいで出品していても長時間かければ落札されたかもしれないが、元々50万円出すことを覚悟していた私に届いたので、ほぼ最適化されたと言えよう。金額ではなく質的に考えても、私がこれを乗り倒した暁には、RE8の良さを分かっているランキング世界30位には入るだろう。全プレーヤが取引コストを勘案して低めの価格を付けて一連の取引を行ったというモデル化をすれば、これはパレート最適でもある。とはいえ、最終的に私が50万を払う意欲があったという情報を含む完全情報を全プレーヤが持っていた場合に行き着いたであろうパレート最適状態を基準とすると、私が情報の非対称性を用いて一人勝ちしたとみなせる。そんな市場は存在し得ないので、その比較に意味はないのだが。

なぜこんな小難しいことを書いているかというと、私が中古品を買って二次市場で一人勝ちした上に、価値の源泉であるブリヂストンサイクル社に1円も落としていないことに若干の後ろめたさがあるからだ。しかし、世界はそういうルールのゲームであり、私はチートをしているわけではない。本件に関する自己批判への反駁を五つの観点で述べる。まず第一に、元のオーナーですら、ブリヂストンサイクル社に直接金を落としているわけじゃない。自転車販売店に金を支払い、その自転車店がブリジストンサイクル社に支払いをしているか、もう1ホップくらい挟んでいるかもしれない。便宜的に一次市場と言われている領域もそんなに単純じゃない。第二に、私はフリーライダーではない。フリーライドは公共財に関する概念であって、私が私財を費やして買って所有権を得た私的財についてフリーライドの概念は当てはまらない。私は二次市場に参入するために金を払っているし、他のプレーヤも全てそうだ。そして、二次市場の価格(リセールバリュー)があるから一次市場の財の価格が上がる。多くの人が二次市場を血眼になって探すと、二次市場の価格が一次市場の価格に近づき、一次市場で買うのとコスパが遜色なくなるところで均衡する。「一個人の消費行動が合理的であったとしても皆がそれを模倣すると社会が立ち行かなくなる」ならば、その個人の合理性を社会善として喧伝することは合成の誤謬にあたるが、二次市場の存在はその批判には当たらない。皆が二次市場で調達したら一次市場が干上がるという命題は、前提が間違っている。一次市場があるから二次市場が存在するので、皆が二次市場で調達することはできない。第三に、私は二次市場でうまく立ち回って消費者剰余を最大化させたが、それは二次市場に完結している話なので、私が安く買おうが高く買おうが一次市場への影響は同じだ。二次市場から在庫が減ったことで一次市場の需要が少し上がるだけだ。耐久消費財を二次市場で売却することを否定するなら、破棄するか譲渡するかということになる。破棄するのが非効率なのは明白だ。譲渡するなら譲渡経済が成立するだけなので、結局二次市場はなくならない。第四に、東証プライムの上場企業であるブリヂストン株式会社の子会社であるブリヂストンサイクル株式会社が二次市場を否定することはできない。株券は発行後の二次市場での売買で価格が定まるわけで、株式市場で価値を証明し続けることを目標とする企業グループは、製品の二次市場の存在を認め、そこでの価値をも念頭に置いて活動するのが当然だ。第五に、自由市場においては、全プレーヤが限定合理性の枠組みの中でパレート改善を重ねている。そして、巡り巡って価値のある財が私に行き着いて私が幸せになることで、世界の幸せの総量は上がっている。情報と合理性が十分あれば、良いものは売れると信じる。自分と世界の合理性の向上に寄与するためにこの記事を書いている。合理性が向上した市場では歪みをついて利潤を得ることが難しくなるが、それでいい。各プレーヤが歪みをつく努力をすることで歪みが是正され、良いものが高く売れる結果として適正価格の財の質が上がれば、皆が幸せになれる。なお、新品購入、応援消費、推し活、フェアトレード、グリーン購入といったプレミアムが付いた購買行動を否定する気はない。購買者がそれぞれの価値観と動機に基づく効用最大化を図ればいい。たとえ高級機材の性能を活かしきれないにしても、素人の過剰な投入資金が養分となって業界が潤っている側面は否定できない。私は、最もよく走る自転車を最も安く手に入れたかった。単なる買い物自慢に壮大な自己弁護をつける必要もないのだが、中古で買ったことによる認知的不協和をここで解消しておくことで、堂々と楽しく乗れるようになる。

RE8のサイズ毎のジオメトリ

RE8を買うか、またはサイズが適切か検討するにあたって、サイズ毎のジオメトリを調べていた。いくら素材や構造や製造品質が良くても、ジオメトリが合っていなければ台無しだからだ。公式のジオメトリ表は以下の通りだ。

フレームサイズ390420450480
シートチューブ長385425453480
水平トップチューブ長494510530548
ヘッドチューブ長95110130155
キャスター角70°30'70°30'71°30'71°30'
シート角75°45'75°45'74°00'73°30'
オフセット53534848
フロントセンター578586585599
リアセンター420420420420
ハンガー下がり80808078
ホイールベース9859939921007
スタンドオーバーハイト667703730758
スタック508523547568
リーチ365368373380
ハンドルステム長8090100110
ハンドル幅380400400420
クランク長160165170172.5
適正身長(cm)145-158154-167163-176173-185
股下サイズ目安(cm)66.3-73.870.6-78.074.5-82.279.1-86.4

私の身長164cm、股下74cmと適正身長と適正股下だけ見れば、420が最適であることは自明だ。わざわざこの表を載せたのは、サイズ毎のジオメトリを比較すると面白いからだ。まず、全サイズでリアセンター(チェーンステー長;BBと後輪車軸の距離)が同じなのが目に付く。リア三角の金型を1種類に抑えて製造コストを下げるためだろう。Roubaix SL8がフレームサイズ6種類、リア三角3種類を使っているのに比べると、Anchor RE8がフレームサイズ4種類、リア三角1種類というのは少ない。これは資金と市場規模の違いを表している。リア三角を1種類に絞るならば、設計の基準となるのは日本人男性の平均身長である171cmに対応する450にするのが自然だ。それ以外のフレームサイズは、他のパーツを調整して帳尻合わせをすることになる。

フレームサイズの最重要パラメータはシートチューブ長だが、それに応じて他のパーツの長さも決まるはずだ。しかし、そこで気づくのが、420と450で、フロントセンター(BBと前輪車軸の距離)とホイールベースの長さが逆転していることだ。シートチューブ長453mmと425mmだが、ホイールベースは992mmと993mmだ。なぜそうなるかというと、420以下ではキャスター角を寝かせているからだ。一方で、クランク長は420が165mmで450が170mmなので、明らかに450の方がトウオーバーラップを起こしやすいことになる。また、420以下はキャスター角が寝ている分だけオフセットが増えている。タイヤ半径は700Cの30Cだと622 / 2 + 30 = 341mmだ。ゆえに、450のトレール量は(341・cos(71.5°) - 48) / sin(71.5°) = 63.5mmで、420のトレール量は(341・cos(70.5°) - 53) / sin(70.5°) = 64.5mmだ。両者でトレール量を大体同じにすることに成功している。

同じフォークで390と420の両方のトレール量を補正する必要性から、420は過補正にせざるを得なかったのだろう。結果として、420の方がホイールベースもトレール量も大きくなっている。これは設計者にとっては副作用なのだろうが、直進安定性を好む私にとっては望ましい結果になっている。車種だけでなくサイズ毎のジオメトリに着目するのが大事だと改めて思う次第だ。おかげで、RFX8の450だとちょくちょく起きるトウオーバーラップも起こらなくなっている。また、下り坂などの高速走行時にハンドルが左右に振れて操作不能になるシミー現象もキャスター角が寝ている方が起きにくい。RFX8で一度シミーが起きた時は死ぬかと思ってトラウマになっているので、その点でもRE8の420は安心だ。

ちなみに、アジア圏の小さめサイズを狙っているGiant Defy Advanced 1でも、全サイズのリアセンターを420mmで統一しているが、オフセットも50mmで統一してキャスター角のみで帳尻を合わせている。結果として、トレール量には、MLで58.6でXSで71.6という差が出ている。ROIを考えればXSにしわ寄せが来てもやむ無しという判断だろう。それに比べれば、Anchor RE8の開発陣は、製造コストに制約がある中でもフォークを2種類使って小さいサイズのトレール量の差異を抑える努力をしていると言える。そのコストは値付けに反映されているわけで、何が正解というのはないのだが。

420のハンドル幅が40cmなのは、適正身長の範囲から考えるとちょっと広めの設定だ。実際に乗ってみても、ちょっと広めに感じる。広いほうがハンドル操作が楽で外乱に対する安定性も良いが、空力が悪くなる。個人的には38cmの方が良かったと思う。とはいえ、ロングライドでの空力と快適性を両立させたいならDHバーという選択肢があるので、当面は40cmのままで運用する。気が向いたら38cmや36cmに換装するかもしれない。

まとめ

Anchor RE8の105 Di2モデルを買った。ジオメトリや仕様を慎重に検討した上で、運よく掘り出し物に出会えたおかげで、めっちゃ良い買い物になった。RE8が素性の良い車体であり、105 Di2による機能性と、良いホイールと良いタイヤによる走行性能のおかげで、自転車に乗るのがもっと楽しくなった。適当に流しているだけでドーパミンが出てそうだ。生身の人間なのに、炭素と金属の謎の構造物に跨ると、存外の速度で存外の遠くに行けてしまうのだ。バトゥの騎馬兵は1日100km近く移動したと言うが、ロードバイクならその2倍以上は余裕で行ける。当初の予想よりも便益が主観で140%くらいになっていて、当初の予算よりも70%くらいの出費で済んでいるので、コスパは2倍だ。

RE8が良い製品だと私は断言できるが、他の製品でも、ジオメトリが自分のユースケースに合ってさえいれば、幸せになれるはずだ。ロングライドもするホビーサイクリストとしては、クランク長は脚の長さに合わせるべきで、BBはクランク長が許す限り低い方が良く、ホイールベースは長い方が良く、トレールは長い方が良く、ハンドルの高さは体幹が許す限りで低い方が良い。剛性に関しては、定評のあるメーカーのものなら、素人が出すトルクに耐えられなくて困るってことはまずないだろう。ホイールとタイヤは太くて軽い方が良いが、完成車でワイドリムのカーボンホイールが付いているのはハイエンドのモデルだけで、それらは趣味の値段じゃなくなってくるのが辛いところだ。限られた予算で要求を満たすには、市場を監視し続けて、情報の非対称性が活かせる場面を狙うしかない。とはいえ、普通に新品で車体を買って、デフォルトのまま乗ったとしても、十分に楽しめるだろう。

購入後の第一印象は基本的に購入者バイアスに溢れているので、ここに書いてあることを信用してはいけない。本当の美点や欠点は3000kmくらい乗ってみないとわからない。それぞれの部品の良し悪しは、違う部品と交換しないとわからない。今回は車体全体を入れ替えているわけで、フレームも含めて、どの部品が何に貢献しているのかの切り分けができていないのだ。とはいえ、現状で全く不満がない状態になっているので、これ以上細かく分析する動機はない。しばらくは走ることを純粋に楽しむつもりだ。

追記:購入後のロングライド向けカスタマイズについては以下の記事にまとめた。

追記:さらに、ブルベでSRを取り、大阪東京キャノンボールも達成した。Anchor RE8が有能なエンデュランスロードであることを実証できたと思う。